安倍政権による消費税増税強行を批判する
生活は破壊、企業には減税の「経済政策パッケージ」に反対しよう

 10月15日第185臨時国会が召集されました。安倍首相は「成長戦略実行国会」などと位置づけ、今後3年間を「集中投資促期間」と設定し税制・予算・金融・規制緩和を進めることを露骨に表明しています。すでに産業競争力強化法案が閣議決定され、今国会に提出されるのは確実です。しかし、国内投資を促進するというのは、庶民の負担を増やしその犠牲でグローバル企業を優遇するということにほかなりません。何年も前から「上げ潮戦略」、「トリクルダウン」などと謳い「企業が儲かれば庶民の生活もよくなる」と説明してきましたが、全くデタラメでした。
 さらに安倍首相は、安全保障を最優先する日本版NSC(国家安全保障会議)創設法案や基本的人権を踏みにじる特定秘密保護法案、国内の農業や医療などを破壊し生活を脅かすTPP交渉の促進、労働法規が適用されない「解雇特区」の設定など生活破壊の政策を次々に打ち出そうとしています。深刻な東京電力福島第一原発の汚染水問題への対応はあとまわしにされ、避難者の生活は放置されたままです。
 このままでは、私たちの生活がズタズタにされてしまいます。とりわけ低所得者層や高齢者、子どものいる家庭などを直撃します。臨時国会に向け、反対の声を上げましょう。とりわけ以下では、消費税率の8%への引き上げへの反対を呼びかけます。

社会保障のための消費税増税はウソ
 安倍首相は10月1日、消費税率の8%への引き上げを正式に表明しました。それと同時に、増税による景気の腰折れを防ぐとして、5兆円超に及ぶ「経済政策パッケージ」なるものを発表しました。その大部分は、法人税減税と公共事業であり、企業の利益べったりと寄り添った、とんでもない代物です。消費税増税による来年度の増収は5兆円と見られ、その全額に相当する額を、これにつぎ込んでしまう。「何のための消費税増税か」との声があがるのも当然です。
 消費税増税によって私たちから巻き上げたカネを、企業にばらまこうというのだから、これほど露骨なやり方もありません。なるほど、安倍首相が目指す「世界で一番企業が活躍しやすい国」にふさわしい。安倍首相は「減税で企業にカネを回せば、賃金が上がる」など言いますが、こんなことが成り立たないことは、既に事実が証明しています。
 安倍首相は、消費税増税実施を表明した記者会見で、「毎年増えゆく社会保障費をどうまかなうかは大きな課題」、「消費税収は社会保障にしか使わない」などと大見得を切りました。マスコミもそれに同調して増税の決断を称えています。しかし、消費税の導入も5%への増税も「社会保障のため」だったはずですが、社会保障はそれで充実するどころか、どんどん切り縮められてきたではありませんか。今も、消費税増税と並行して、「社会保障制度改革国民会議」を通じて、その切り捨て計画を着々と進めているのは、安倍首相自身ではありませんか。
 「深刻な財政危機」を持ち出されると、増税に同意せざるをえない人も多いかもしれません。ですが、その財政危機を作り出したのは誰で、何のためなんでしょうか? それは、今回の「経済政策パッケージ」を見れば明らかではないでしょうか。決して社会保障のためではありません。公共事業を中心とするばらまきと、企業や富裕層に対する減税に、予算を好き放題に使ってきたからです。消費税増税と「経済政策パッケージ」を許すことはできません。

様々な負担増に追い打ちをかける消費税増税
 安倍内閣は10月1日、昨年8月に成立していた消費税増税法に基づき、来年4月から消費税率を8%に引き上げることを閣議決定しました。増税法には、「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」という「景気条項」がありますが、施行停止の必要はないと判断し、最終的にゴーサインを出したものです。
消費増税を正式発表 安倍首相「これが私の結論だ」(朝日新聞)

 消費税率の8%への引き上げは、新たに年間8・1兆円もの税金を課すものです。これは、日本の戦後史上最大の増税です。単純計算で国民1人あたり年間5万円、4人家族ならば20万の負担増になります。もちろん、この負担増はすべての人に平等にかかるわけではありません。消費税の持つ「逆進性」によって、低所得者ほど、収入に占める負担の割合は重くなります。
 しかも、問題は消費税だけではありません。すでに、消費税の他にも様々な負担増が実施され、これからも実施されます。10月から年金支給額が1%引き下げられました。支給開始年齢のさらなる引き上げも狙われています。子どものいる世帯では、12年以降、住民税の年少扶養控除が廃止されたうえ、子ども手当(現児童手当)も縮小されます。ひとり親家庭に支給される児童扶養手当も、10月分から支給額が0・7%切り下げられ、来年4月にも0・7%、15年4月にも0・3%引き下げが予定されています。
 医療では、14年度から高齢者(70〜74歳)の医療費自己負担を1割から2割に引き上げ、また「高額療養費制度」の見直しで一部の所得階層の負担額を引き上げようとしています。国民健康保険の都道府県単位への再編も、保険料引き上げをともないます。介護保険では15年度から、一定以上の所得がある利用者の自己負担引き上げ(1割→2割)、「要支援」の人へのサービスを介護保険から切り離し市町村に押しつける、などが狙われています。
 生活保護は、8月から「生活扶助」が減額され、3年かけ670億円削減される。世帯によって最大1割減らされます。厚生労働省は「住宅扶助」など3つの扶助や各種加算制度も今後見直すとしています。
 その上、物価高が加わります。すでに、円安による輸入価格上昇で、牛乳、豆腐など大豆製品、小麦粉をはじめとして、食料品が幅広く値上がりしています。猛暑や大雨による野菜の大幅な値上がりもあります。原発事故と円安によりエネルギー代金も上昇し、8月の電気料金は前年同月比8・9%、ガソリン代は13・8%高くなっています。
 消費税増税は、これらすべての上に乗っかり、追い打ちをかけるのです。89年の消費税導入時と97年の5%への増税時は、所得税などの減税と抱き合わせでしたが、今回は減税なしの「純粋増税」だから、その負担がそのままのしかかって来ます。しかも、15年10月の税率10%への引き上げが、すでに法律には規定されています。そうなった時、増税とすべての負担増をあわせると、年収300万円世帯で年間40万〜60万円、500万円世帯で年間60万〜70万円と、年収の1〜2割になるという試算もあります。
増税と値上げで年収300万円世帯の負担は年間40〜60万円増(NEWSポストセブン)

公共事業と企業減税の「経済政策パッケージ」
 これだけの負担を課して消費が後退しないはずがありません。安倍首相は、消費税増税が大幅な景気後退をもたらし、“アベノミクス”が破綻することを恐れ、増税決定と引き替えに「経済政策パッケージ」を実施することにこだわりました。「パッケージ」の一つは、12月に編成する補正予算であり、その中心は公共事業です。トンネルや橋などの老朽化対策(「国土強靱化」)、さらに2020年の東京五輪に向けた交通・物流網網の整備を旗印に、巨額の予算をばらまこうとしています。
 そして、「パッケージ」の中心は企業減税です。まず、東日本大震災の復興特別法人税を1年前倒しで廃止します。野田内閣において導入された復興法人税は、14年度までの3年間、税額を10%増額して課されることになっていました。それを、3年を待たず、1年繰り上げて来年度から廃止するというのです。法人税率(国税・地方税の合計)は、東京都内の企業で38・01%から35・64%に下がります。これで9千億円の減税です。
復興法人税廃止 被災地より景気策優先か(福井新聞)

 個人の所得税の復興増税(2・1%上乗せ)は13年から実に25年間、、住民税の復興増税(年間1000円)も14年から10年間続くのに比べて、何という企業優遇でしょうか。しかも、復興法人税導入は、法人税の5%引き下げと同時でしたから、実質的には増税などありませんでした。先送りされた形の法人税減税を、1年前倒しで実行しようというのです。この減税によって、大企業は巨額の資金を手にすることになります。
 企業には「設備投資減税」も用意されています。生産性を高める設備を入れたり、「試験研究費」を増やすと、減税されます。減税規模は4千億円台。企業に投資した企業や、不採算部門を切り離す事業再編を行う企業の法人税も、減税されます。
 これも、巨額の設備投資ができる大企業を優遇する減税です。不採算部門の切り離しで減税というのは合理化、すなわち首切りを行った企業に褒美を与えるようなものではないでしょうか。
 大企業にとっては、消費税増税による負担は大したことはありません。消費者に十分転嫁できる上に、取引停止をちらつかせて下請けに負担を押しつけるのも普通のことです。その上、輸出に対する膨大な還付金まで得ています。その額は現在約3兆円と言われ、税率8%になると約5兆円にもなります。消費税率が上がれば上がるほど儲かるのです。
 対照的に、零細業者にとって消費税増税は壊滅的な打撃となります。多くの零細業者は消費税分を価格に転嫁できず、自分でかぶるっています。例えば、商工会議所などのアンケートによると、大阪市の中小企業の25・2%が、町工場の多い東大阪市では35・2%が、「価格に転嫁できない・難しい」と回答しています。こうした零細業者を含め、7割以上の企業は赤字であり法人税を払ってないから、法人税減税の恩恵などありません。消費税増税と引き替えの法人税減税は、グローバリゼーションと長期の景気低迷に苦しむ零細企業にさらに負担を負わせる一方、儲かっている企業には補助金を与えるようなものです。
減税規模2兆円 与党税制大綱 「法人税率下げ、速やかに検討」(日本経済新聞)

 一方、家計向けの「対策」は、住民税非課税世帯の約2400万人に1人1万円、年金や児童扶養手当などの受給者1200万人超には5千円を上乗せして1万5千円を配る、という程度です。その総額は約3千億円程度で、2兆円近い企業減税に比べはるかに少なくなっています。住民税非課税というのは、給与所得者であれば年収が100万円以下ということであり、それを少し超えるワーキングプアでも対象になりません。
 住宅ローン減税や住宅購入者への10〜30万円の補助金も家計向けの対策と称されていますが、これは消費税増税によって打撃を受けるであろう業界の支援が目的です。ローン減税の恩恵は、購入額が高く、年収1千万円を超えるような高額所得者ほど大きくなります。そもそも住宅を買うことのできない貧困層には全く縁がありません。自動車取得税や自動車重量税の減税もまた業界支援です。
 しかし、安倍首相の本命は以上のような一時的措置ではなく、恒久的な法人税減税です。15年後以降、法人税率のさらなる引き下げが準備されています。恒久的な法人税減税によって、私たちから集めた消費税を、法人税を納める一部の黒字企業に分配する。これを毎年継続して行っていくということです。
 これまでも法人税はどんどん下げられてきました。税率が最も高かった時の税率は43・3%(国税分、1984年)、復興増税廃止後はこれが25・5%まで下がります。財界や自民党は、二言目には「日本の法人税は高すぎて国際競争に勝てない」と言うが、これはウソです。法人税に社会保険料の企業負担分を含めて考えると、主要先進国の中でもやや低い方です。また、法人税の「実効税率」自体が、実際にグローバル企業が負担している税率とはかけはなれています。実際には、試験研究費税額控除、外国税額控除、受取配当益金不算入などの優遇税制で低くなっているのです。

「企業減税で賃上げ」などありえない
 安倍政権は、「消費税増税で企業減税」という批判をかわすため、「減税で企業にカネを回せば、賃金が上がる」などと宣伝に躍起です。安倍首相は、企業への「賃上げ要請」を盛んに口にしています。「パッケージ」には賃金や雇用を増やした企業への減税措置も含まれていますが、こんなことはパフォーマンスにしかならなりません。企業側もリップサービスはすれども、賃上げの実行は限られるでしょう。恩恵を受ける労働者がいるとしても、一部の大企業の正社員のみでしょう。非正規労働者や下請けの中小零細企業の労働者には、関係のない話です。
消費増税、法人減税が格差を広げる?景気への効果薄く、大企業優遇といわれるワケ(Business Journal)

 先に企業を富ませてその利益を社会に行き渡らせるという「トリクルダウン」のデタラメは、すでに明らかです。2002年から07年にかけて過去最長の景気拡大(いざなみ景気)が続き、多くの企業が過去最高業績の更新を繰り返しました。企業の株主への配当額は、1999年度の5兆円あまりから、2007年度の20兆円以上へと、4倍以上に膨れあがりました。利益は莫大な内部留保として企業内に積み上がり、12年度には304兆円と10年前の1・6倍にもなっています。
 その陰で、何が起きているでしょうか? 1人あたりの給与は97年をピークに減少の一途をたどりました。その間、労働規制がどんどん緩和され、非正規労働者が急増し、低賃金と劣悪な労働条件で働かざるをえない人が激増したのだから当然です。8月の非正規雇用者は1906万人、被雇用者の4割近くになります。第2次安倍政権になってからも、1人あたりの所定内給与は15ヶ月連続で前年同月を下回り続けています。8月の失業者数は前月比21万人増え272万人、失業率は0・3%上昇し4・1%となりました。現在、年収200万円以下の労働者が全就業者数の1/4で、7年連続で1000万人を超えています。約30%の世帯は貯蓄がありません。
 7月の生活保護受給者は約215万人、約158万世帯で、世帯数は過去最多を更新しました。11年に餓死した人は1746人(厚生労働省人口動態調査による)。97年からの14年間で1・7倍に増加しました。5時間に1人が餓死しているのです。自殺者は11年まで14年連続3万人を超えました。そして、数十万人に上る震災と原発事故の被災者は、生活再建も進まず、「棄民」状態に置かれているのです。

「果てしなき増税」を許さない 責任は財政危機をもたらした者が取れ
 消費税の増税が、こうした生活破壊を一層深刻化させるのは間違いありません。しかも、増税は今回で打ち止めではないのです。15年10月の消費税率10%への引き上げでも終わりません。国の借金が1千兆円を超える日本の財政状況は先進国で最悪です。安倍政権は20年度にプライマリー・バランスをゼロにする、という国際公約を掲げています。この達成には、内閣府の楽観的な試算によっても、消費税率を15%程度に上げなければならないことになります。
 「社会保障のため」、「財政再建のため」という政府の理屈を許せば、「果てしなき増税地獄」が続くことになりかねません。しかし、実際には増税分は社会保障ではなく、財界と大企業のために使われるのだということは、今回の「パッケージ」からも明らかです。社会保障のためと称して私たちからむしり取ったカネを、公共事業や減税で企業にばらまく、その繰り返しが今の事態をもたらしたのではないでしょうか。もうたくさんです! 財政危機は、消費税増税で人民にその犠牲を転嫁するのではなくはなく、それをもたらした者に責任を取らせなければなりません。
 「パッケージ」でのグローバル独占優遇があまりにも露骨なため、与党内からも異論が噴出しています。福島県選出の自民党国会議員は、復興法人税廃止に反対する要望書を安倍に提出しました。公明党だけでなく自民党内ですら、企業に減税しても賃上げにつながらないとの見方が少なくありません。安倍首相も、こうした異論に配慮せざるをぜず、復興増税廃止も恒久的な法人税減税も、現段階では「検討」とされ、最終決定はされていません。与党内の矛盾も利用して、グローバル独占のための消費税増税と「パッケージ」への批判を広げましょう。
「財政黒字化なんてムリ!」安倍首相の法人税減税案で政府与党の駆け引きが激化か【争点:アベノミクス】(ハフィントンポスト)

2013年10月15日
リブ・イン・ピース☆9+25