低所得者・勤労者から金を奪い、財界・ゼネコンにばらまく
「アベノミクス」に反対する

これまでにやったことの繰り返しに過ぎない「アベノミクス」
 「アベノミクス」と称して公共事業の大盤振る舞いと無制限の金融緩和を表明する安倍首相を、ゼネコンや輸出企業をはじめとする財界は大歓迎している。これらによって、長年にわたる円高とデフレに悩んでいた日本経済は一気に回復し私たちの生活も改善すると宣伝されている。
 1月22日には、政府と日本銀行が「共同声明」を出した。声明では「物価安定の目標を2%とする」と明記し、金融緩和を推進し、できるだけ早期に実現することを目指すとしている。政府は機動的なマクロ経済政策に努めるとした上で、規制緩和や税制など政策を総動員して経済構造の変革を図るとした。だが早くも失望感、失速感がではじめている。
政府と日銀が共同声明、物価目標2%できるだけ早く実現(朝日新聞)
外為市況22日 円上昇、日銀追加緩和への失望感で(WSJ)

 安倍首相は、「アベノミクス」の内容を「3本の矢」と説明している。それは、(1)公共事業を中心とする財政出動、(2)2%のインフレを目標とする無制限の金融緩和、(3)成長戦略、の3つである。これらによって以下のような好循環を実現する、としている。

 だがそのような「アベノミクス」シナリオは全くの眩惑である。確かに参院選までの「安全運転」によって、安倍政権は一時的な景気回復を「演出」出来るかも知れない。しかしそれは、来年4月に最悪の逆累進課税である消費税を8%に、さらにその次の年には10%へと上げるための条件づくりにすぎない。
「アベノミクス」は、上図のように すべての資源を企業支援につぎ込む企業業績改善中心循環である。それは低所得者・勤労者から金を搾り取り、社会保障や医療から高齢者など本当に医療・介護を必要としている人たちを排除し、その金を財界・ゼネコンにばらまくという自民党政権がこれまでやってきた政策の繰り返しに過ぎない。
 公共事業も極端な低金利政策も、これまでに散々やってきた。確かに2%というインフレ目標を掲げたことはなかったが、その程度の違いでしかない。要するに、「アベノミクス」とは、これまでやってきたことを、もっと露骨に、徹底してやろうということでしかない。
 結局は巨額の財政赤字を積み上げその犠牲を国民の肩に背負わせるという最悪の結果しかもたらさない。私たちの生活が良くなることなどない。

さらに財政危機を悪化させる緊急経済対策と公共事業
 なによりも「アベノミクス」の性格を露骨に示しているのが緊急経済対策だ。安倍内閣は1月11日、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を閣議決定した。国や自治体などを合わせた事業費は20.2兆円にのぼる。このうち国が10.3兆円を支出し、その半分を公共事業が占める。15日にはこの経済対策に基づく2012年度補正予算案を閣議決定している。補正予算案の歳出総額は13兆1054億円に上り、今年度の国債発行額は実質52兆円にふくらむ。民主党政権は「借金44兆円以下」という目標を定めていたが、これをはるかに上回る借金財政となる。
国債発行52兆円に膨張 経済対策20兆円、借金頼み(朝日新聞)

 あろうことか、緊急経済対策には、哨戒ヘリコプター「SH60K」やPAC3ミサイルの購入、F15戦闘機の性能向上のための改修など、軍事費約1805億円までもが含まれている。安倍政権は防衛大綱と中期防を見直し、来年度予算では11年ぶりに防衛費を増額させる方針である。中国・朝鮮民主主義人民共和国などアジアの緊張をあおるだけで、生活を豊かにすることはない軍事予算の拡大が、平然と「緊急経済対策」として計上されているところに、「アベノミクス」の反動性が表れている。軍事予算を緊急経済対策などと称して計上することは許されない。
緊急経済対策 F15改修、領域警備も(産経新聞)
緊急経済対策に20兆円群がるシロアリ官僚たち(日刊ゲンダイ)

 緊急経済対策の半分近くを占める公共事業は、自治体向け交付金の肩代わりが32%を占め、さらにそれを除いた大半が道路、ダム、堤防など従来型の公共事業だ。バブル後の1990年代の公共事業拡大策が現在の巨額の累積財政赤字を生み出した。国債発行残高は、1992年度の約180兆円から2012年度には約700兆円にふくれあがった。その結果は、利用者がほとんどない空港や道路、公共施設などの残骸である。
公債残高の推移(財務省)

 また安全や耐久性を無視したばらまきによる野放図な公共投資の悪弊は、笹子トンネル事故などとして今になって噴出している。それでも政府は全長1万キロメートルの高速道路をさら4000キロメートル増やすという。後世に財政赤字として犠牲を繰り延べしただけでなく、人命を奪い社会の公共財を破壊するという形で負の遺産を残している。これを「国土強靱化」推進の口実にするなど許されない。これまでの政策を転換し不必要な公共投資政策から転換すべきだ。

バブルとまやかしの「トリクルダウン」
 「トリクルダウン(富が徐々に流れ落ちる)」も散々言われて来た。企業が潤えば、その「おこぼれ」を労働者が享受できるという、企業中心的な考え方だ。だがまさしく、第一次安倍政権の「上げ潮戦略」がそうではなかったか。彼らは、企業が成長すれば景気はよくなり、税収も増えて財政赤字も解消し、労働者の給料もあがるという好循環を宣伝した。
 だが実際には全くそうはならなかった。2002年から07年にかけて過去最長の景気拡大(いざなみ景気)が続き、多くの企業が過去最高業績の更新を繰り返した。企業の株主への配当額は、1999年度の5兆円あまりから、2007年度の20兆円以上へと、4倍以上に膨れあがった。にもかかわらず、その「おこぼれ」は労働者には全く行き渡っていない。1人あたりの給与は97年をピークに減少の一途をたどった。企業業績が改善されても、それが賃金上昇と雇用改善につながらなかったというのが現実だ。利益は莫大な「内部留保金」として企業内に積み上がり、配当金を手に出来る一握りの大金持ちをさらに富ませる一方、労働者の生活は改善するどころか、ますます悪化したのである。
企業利益と民間平均給与の推移http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20111025/1319524112より)
大企業の配当金と人件費の関係(Garbagenews.com)

 それにははっきりとした理由がある。90年代後半から2000年代にかけて、「規制緩和」「自由化」として、労働規制がどんどん緩和されてきた。その結果、非正規労働者が急増し、低賃金と劣悪な労働条件で働かざるを得ない人が激増した。そうなれば、悪い条件でも求職者は殺到し、賃金は当然下がり、雇用環境は悪化する。
 企業業績を賃金上昇と雇用改善につなげるためには、労働規制の強化が必須なのである。しかし、安倍政権のやろうとしていることは全く逆である。
 若者が将来の展望をもてない、結婚もできない、子どもも作れない、まともな住居に住めない−−そのような最悪の社会状況がまさに「トリクルダウン」論、「上げ潮戦略」によって生み出されていったのである。

 今年のはじめ朝日新聞は、1杯100円のコーヒーで夜を明かす「マクド難民」を一面トップで伝えた。1日1000円程度のネットカフェにも泊まることができない、職も住居も頼る人もない大量の貧困層が生み出され、とりわけ都市部ではあたりまえのことになっていることを伝えている。労働者は「トリクルダウン」にあずかれるどころか、企業利益を出すためのコマとして、非人間的な環境にたたき込まれることになった。「アベノミクス」はさらにそれを加速するものに他ならない。安倍首相は自らの政策で60万人雇用などといっているが、全く根拠がないことがメディアでも報じられている。「給与・雇用を増やしたら企業減税をする」という策が含まれているが、結局は企業救済のための方途でしかない。「このために人件費を増やすことはない」と財界の幹部自身が語っている。
(限界にっぽん)夜をさまよう「マクド難民」 非正規の職まで失う(朝日新聞)
「雇用60万人増」実現に疑問の声(日本経済新聞)
同友会代表幹事「新税制で賃上げ進まず」(日本経済新聞)

財政赤字と企業支援の負担を押しつける「アベノミクス」反対
 これまでの15〜20年と同様、「アベノミクス」によって私たちの生活は良くならない。それどころか、はるかに上回る負担増がこれから押し寄せようとしている。
 まず消費税の増税がある。これだけを取ってみても、この20年の間には税率が2%上がっただけだが、今後3年弱の間に5%も上げられるのである。生活必需品も含め一律に税がかかる消費税増税は、とりわけ低所得者層の生活を直撃する。また、消費税増税分のコスト削減が親企業から中小零細企業に強要されることで、さらなる人件費削減や町工場などの経営行き詰まりをもたらす危険も指摘されている。その他にも厚生年金など各種保険料の値上げ、電気料金値上げなどが予定されている。
消費・復興重なる増税 家計 年収300万円世帯なら25万円(東京新聞)
斎藤貴男氏「消費税のカラクリをあばく」(動画)

 加えて、「アベノミクス」の宣伝文句である通貨供給、インフレによる物価一般の上昇、円安による輸入品、特に燃料価格の上昇が襲ってくる。公共事業の大盤振る舞いなどにより財政危機の一段と深刻化し、社会保障や医療の切り捨てや追加の増税など、一層の負担増がのしかかる。
 さらに、無制限の金融緩和、日銀による事実上の国債引き受けが、国際的な円への信任低下を引き起こし、累積赤字1000兆円にも上る財政危機から国家信用危機をもたらし、国債暴落、さらには円の暴落、ハイパーインフレーションにつながる恐れも指摘されている。
 一部の企業は一時的に儲かるかも知れないが、実質賃金は目減りし、私たちの負担はどんどん増えていく。それが「アベノミクス」である。「アベノミクス」によって景気が良くなり、生活が良くなるというような宣伝は、全くの詐欺というほかない。逆に、巨額の財政赤字を残し、増税や社会保障切り捨て、あるいはインフレという形で犠牲を私たちに押しつけるものだ。私たちは、このような経済政策には絶対に反対である。

2013年1月23日
リブ・イン・ピース☆9+25