ICJのジェノサイド防止命令に従え
イスラエルを追いつめ恒久停戦を押し付けよう

 国際司法裁判所ICJは1月26日にイスラエル政府をガザ地区でのジェノサイド(大量虐殺)の罪で訴えた南アフリカ共和国政府の訴えに対して暫定措置命令(仮処分判決)を言い渡しました。それは南アフリカの主張が「確からしい」と判断した上で、これ以上ジェノサイドを放置して手遅れになる前に緊急措置としてイスラエルと軍にジェノサイドの防止を命令しました。ただ、暫定措置は「停戦命令」まで踏み込みませんでした。しかし、この命令に従ってジェノサイドを防止するためには停戦は不可欠です。その意味では事実上の停戦命令なのです。
 以下に示される判決は、イスラエル政府をジェノサイドの犯罪で裁く裁判の最初の行動です。パレスチナ人民と世界の運動が勝ち取った歴史的な成果です。それは今も毎日何百人ものパレスチナ人を殺し続けているイスラエルに国際的・法的・道徳的打撃を与えています。

(1)イスラエルにジェノサイド防止を命令
 ICJは「ICJはこの件で裁判の管轄権を持たない」というイスラエルの主張を退け、極めて短期間で暫定措置命令(仮処分判決)を出しました。この裁判は昨年12月29日に南アフリカ政府がイスラエルがガザ地区でジェノサイド(大量虐殺)を行っていると提訴したものです。ICJは本件に関してイスラエルの行動によって取り返しのつかない不利益を被るリスクと緊急性があると判断し、正式の審議と判決を待たずに暫定措置として以下の6項目をイスラエルに命じました。
@ガザのパレスチナ人に対する、ジェノサイド条約の第二条の範囲内のすべての行為(殺人、危害、生活条件の破壊等)の実行を防止するため、権限内のすべての措置をとること。
A自国の軍隊が上記@のいかなる行為も行わないことを直ちに確保すること。
Bガザ地区のパレスチナ人集団の構成員に関し、大量虐殺を行うよう直接かつ公に扇動することを防止し、これを処罰するためにその権限内にあるすべての措置をとること。
Cガザ地区のパレスチナ人が直面する不利な生活状況に対処するため、緊急に必要とされる基本的サービスと人道的支援の提供を可能にする即時かつ効果的な措置をとること。
Dガザ地区のパレスチナ人集団の構成員に対するジェノサイド条約第2条及び第3条の範囲内の行為の証拠の破壊防止と保全確保のための効果的な措置をとること。
Eこの命令の日から1カ月以内に、この命令を実現するためにとられたすべての措置に関する報告書を裁判所に提出すること。
 ICJは、以上の暫定措置命令は拘束力を有し、したがって暫定措置の対象となるイスラエルは国際的な法的義務に従わなければならないとしました。

(2)大量殺戮国家イスラエルに鉄槌
@判決は、イスラエルに対して巨大な鉄槌を振り下ろしました。提訴した南アフリカを初めイスラエルのジェノサイドを批判する国々と諸運動は、この暫定措置命令が事実上イスラエルをジェノサイド犯罪で有罪とみなすもので、国際的に指弾するものだと評価しました。確かに、暫定措置命令には南アが要求した「即時停戦」は入れられませんでした。しかし、ジェノサイドの防止や、軍が行ってはならないと明示した命令を守ろうとすれば、イスラエル軍がガザに対する攻撃を直ちに止めて人々を殺すのを止めるしかありません。事実上停戦するしかない命令を国際司法機関がイスラエルに突きつけたことの意義は大きいのです。

Aこの裁判はジェノサイドをめぐって初めてイスラエルを被告にした国際裁判です。イスラエルはナクバ以来78年にわたってパレスチナ人を虐殺、虐待、支配しジェノサイドの犯罪を侵し続けてきました。現在も大規模なガザ攻撃=ジェノサイドをやめず、人々を殺し、傷つけ、さらにパレスチナ人をガザから追い出す民族浄化さえ行おうとしています。
 これまでイスラエルのパレスチナ人に対する占領・支配とジェノサイドは、米国と欧州の力によって無理やり不問に付され、裁かれることはありませんでした。米国は国連安保理でイスラエル非難決議にことごとく拒否権を発動し、葬り去ってきました。中東ではパレスチナ人だけでなく周辺諸国に対しても白昼堂々と攻撃し、殺人を繰り返す異常な戦争国家イスラエルを育て上げてきたのは米国と欧州諸国です。イスラエルは自分を非難するものに「反ユダヤ主義」のレッテルを張って黙らせてきました。ジェノサイド防止条約は、ユダヤ人差別とナチスによるユダヤ人大量虐殺をきっかけに、二度とジェノサイドを許さないために作られました。その条約に基づく裁判に「ユダヤ人の国家」であるイスラエルは被告として立たされ、仮処分とはいえ有罪に値するものとして問われています。過去に自分たちが受けたホロコーストの被害を、今ではイスラエルの側がパレスチナ人に対する加害者として裁かれているのです。

BICJ法廷の暫定措置命令は、イスラエルを非難するアラブ諸国、グローバル・サウス諸国や途上諸国、世界中のパレスチナ連帯運動、平和運動など国際的な世論を反映しただけではありません。法廷を構成する圧倒的多数の裁判官が暫定措置を支持しました。イスラエルが繰り広げる、あまりにひどい、悲惨極まりない子どもや女性、市民の大虐殺に正当化も法的弁解の余地もなかったのです。法廷では既に25700人が殺され、63000人が負傷し、36万戸の住宅が破壊され、170万院が国内避難民にされた事実が提出された。地獄のような状態にあるガザの人々の置かれている実態が暴き出されました。「ガザは死と絶望の場所になった」(国連事務次長)、「ガザは人口の93%が危機的レベルの飢餓に直面している」(WHO)、「ガザの人口の多くは肉体的にも精神的にも、生涯にわたって傷を追い続けるだろう」(国連パレスチナ難民救済機関UNRWA)等の発言を法廷はもっともらしいと判断しました。イスラエルが反論しましたが暫定措置命令を阻止することはできませんでした。17人の裁判官のうちわずか1〜2名が反対しただけで(そのうち1名はイスラエルからの裁判官)、米国、西欧、日本出身の裁判官たちもこぞって暫定措置を支持しました。

C暫定措置命令の判決は極めて短期間の審議で出されました。いかに法廷がこの問題を重要視し、緊急性を持つと考えているかを示しています。南アフリカの提訴は12月29日でした。1月11日、12日に法廷で南アとイスラエル双方が主張を行いました。そして1カ月足らずで暫定措置命令(仮処分判決)が出されたのです。正式の判決が出る数年先まで手を出さなければ、どれだけの人々が殺され傷つけられるか、想像することさえできません。だから、今すぐジェノサイド防止命令をだすべきだ、放置すれば取り返しのつかないことになると法廷は判断したのです。

(3)殺されているガザ住民の失望にどう応えるか
 ICJの判決は、南アフリカが訴えた暫定措置9項目のうち、6項目しか認めませんでいsた。とりわけ最重要の問題である「即時停戦」は暫定措置に入れられませんでした。「ジェノサイド」の認定そのものが今後の裁判本体の中で行われるために、ICJは「即時停戦」命令を回避し、今後の発生防止命令にとどめたと思われます。
 しかし、毎日数百人も殺され、その数倍が負傷させられているガザの人々はICJ判決に失望を表明しました。これほどたくさんの人が殺されている、ジェノサイドであることは明白なのに、なぜICJは今すぐにジェノサイドと認定し停戦を命じないのかと。これは正当な批判です。ICJが2年前のウクライナ戦争に際しては暫定措置としての停戦命令を出したことと比べて疑問を持たざるをえません。ウクライナでは1年9か月に1万人の市民が殺されました。ガザではイスラエルがわずか3か月で2万5千人の市民を殺しました。十数倍の恐るべきテンポで殺し続けているのです。
 提訴した南アフリカは暫定措置を歓迎しました。しかし、外務大臣はなぜ停戦命令が出なかったのか疑問を呈しました。ハマスはジェノサイドの告発を肯定した判決を歓迎し、それを拘束力あるものにし、安保理にジェノサイドに責任を持つよう要請しました。PFLPも同様の態度です。しかし、他の抵抗勢力は提訴した南アに敬意を表して暫定措置を受け入れつつも、停戦要求の「決定を躊躇する裁判所を非難する」(イスラム聖戦)、「決定はレベルに達していない」等の不満を表明しています。
 暫定措置の不十分さはICJの不徹底、決意の不足等を表しています。しかしガザの人々とパレスチナ抵抗勢力の非難と不満は、ICJに対してだけでなく、イスラエルのジェノサイドと戦争を止めることができていない私たちを含む世界各国政府とパレスチナ連帯運動の弱さに主な責任を求めています。イスラエル・米、欧州、日本政府のイスラエル支持とジェノサイド支持を突き破る強い世論をつくれず、長い間ガザの人々を見殺しにしてきたことにに対して怒り、責任をとるよう求めているのです。

(4)ICJ命令に牙をむくイスラエルと米
 ICJ判決にイスラエルは猛反発し、敵意をむき出しにしています。ネタニヤフ首相は「言語道断」「ジェノサイドなど虚偽だ」「自国を守る権利がある」と開き直りました。ガザ侵攻を止めないばかりか逆に強化しようとしています。イスラエルの共犯者である米国も「イスラエルには自衛権がある」とICJ判決に敵意を示しました。国務省の報道官は「ジェノサイドの主張には根拠がない」と言いました。これだけ人が殺されているのに信じられない発言です。彼らが日ごろ口にする市民の被害を防ぐことや人道支援が全くの嘘であることを暴露しています。
 それだけではありません。ICJ判決の当日(数時間後)にイスラエルと米国は新しいプロパガンダで反撃に出ました。国連パレスチナ難民支援機構UNRWAの複数の職員が10月7日の攻撃に加担したという宣伝です。しかし、出所は常習的にデマと戦争宣伝をバラまいてきたイスラエル軍情報機関です。証言は捕虜の自白と携帯電話の位置情報だと言います。本人かどうかさえ不明です。この一方的な主張を根拠にごく短時間に米国だけでなく欧州9か国や日本政府がUNRWAへの資金拠出を打ち切りました。最初からICJがイスラエルと自分たちに不利な判決を出すと分かって準備していた、完全に計画的なカウンター攻撃です。
 仮に一部の職員が関与していたとしても、そのことを理由に難民支援全体を壊滅させることは許されません。彼らの要求はいまもっとも必要な人道物資援助、食料・飲料水・医療援助を打ち切ることであり、ガザ住民を飢餓の地獄に叩き込もうというものです。すでに今月中にもUNRWAの資金が枯渇すると言われています。米を先頭に欧州、日本の政府がもう一つ時のジェノサイドを、今度は自分自身が行おうとしていることに怒りを禁じることができません。

(5)イスラエルと米に停戦を押し付けよう
 ICJ判決に実効性を持たせることが最大の問題です。ICJの判決は法的拘束力を持っています。しかし、ICJは執行機関をもたず強制することができません。ジェノサイド防止を命令されながら、攻撃をやめようとしないイスラエルに判決をどう押し付けるか、これが私たちの課題です。
 国連安保理にはICJ採決を実際の動きにつなげる義務があります。国連安保理の議長国であるアルジェリアは、安保理を招集しイスラエルに判決を義務つける安保理決議を押しつけようと動きました。1月31日に開かれた安保理では、米国は「イスラエルには自衛権がアル」と開き直りました。中国やロシア、アルジェリアはICJ判決を支持し、停戦を要求しました。イスラエルに判決の実行を迫り、停戦を押しつけること、従わなければ制裁も含めて安保理は提起できます。しかし、そのためには米英の常任理事国に拒否権を使わせないことが必要です。米の拒否権を封じてイスラエルにジェノサイド止めさせなければなりません。
 イスラエルを包囲できるのは安保理だけではありません。南アフリカの提訴を多くの国が支持しました。世界中でパレスチナ人民に連帯する運動が広がっています。彼らは安保理に停戦決議を要求し、自国政府にイスラエル支持を止めるよう要求しています。イスラエル包囲の運動をもっと強めることが必要です。
 イスラエルと米国はICJ判決を無視していますが、好きなようにふるまえるわけではありません。国際世論や各国内の運動は、ネタニヤフとバイデンを停戦の方に追いやっています。ネタニヤフは戦争をやめろ、人質解放を優先し、人質を戦争の犠牲にするなという国内の大衆的な世論に揺さぶられています。ネタニヤフの方から人質交換のための「一時停戦」を提案せざるを得なくなっています。バイデンもジェノサイド非難、大統領選挙での親パレスチナ票の離反を恐れ、ハマスの壊滅を望みながら同時に世論対策として戦争規模の縮小を望んでいます。イエメンへの攻撃では戦争拡大の冒険主義を振りかざしながら、イランからの対立緩和提案を考慮せざるを得ない状況にあります。
 停戦に向けてさらに世論と運動を強めましょう。一時停戦、あるいは恒久停戦に向けて圧力をかけることが必要だし、可能になっています。世界中でさらに大きな街頭行動を作り出しましょう。とりわけICJ判決への意趣返しとして米や西欧、日本政府がUNRWA支援打ち切りで新しいジェノサイドを行おうとしていることを強く非難し、自国政府に対する運動を強めなければなりません。

2024年2月3日
リブ・イン・ピース☆9+25