[福島第一原発1号機事故]
地震による配管損傷(破断)でIC(非常用復水器)が機能せず、
炉心溶融へ至った可能性

 政府は、福島第一原発の事故経緯さえあきらかになっていないもとで、定期検査中の原発の再稼働を強行しようとしています。現在54基中44基の原発が止まっていますが、再稼働の先陣として大飯原発3号機が狙われています。
 関西電力は10月28日に、大飯3号機のストレステストの結果を原子力安全保安院に提出しました。政府は、ストレステストに合格することを運転再開の条件の一つにしています。しかしながら、そのストレステストは、全く福島第一原発の事故を踏まえた過酷事故対策ではなく、単なるコンピューター上のシミュレーションに過ぎません。
「再稼働の条件不十分」 大飯原発3号機の安全評価結果(中日新聞)
関電、大飯3号機安全評価提出 保安院は津波項目新設(東京新聞)

 もう一つの条件が「福島と同様の事が起きないこと」としています。福島原発事故の実態や原因はまだ明らかになっていません。しかも、現在問題になりはじめているのは、福島第一原発1号機について、「地震は想定内だが、想定外の津波で全電源喪失に至った」ではなく、想定内の地震によって、緊急時に冷却水を供給すべき非常用復水器が配管損傷を引き起こし冷却機能が失われた可能性が極めて高いことです。
 したがって「想定外の津波で全電源喪失が起きた」とした緊急対策とストレステストだけで原発の再稼働を行おうとするのはもってのほかです。
福島第一原発1号機では、地震動で非常用復水器系の配管が破損 17:50原子炉建屋内放射線レベルの上昇を直視せよ(美浜の会)
福島第一原発では地震で配管が破損した−1号機と3号機の検証(美浜の会)

最後の命綱 IC(非常用復水器)が動かなかった福島第一原発1号機
(1)福島原発事故は、全交流電源喪失によって冷却水の循環が不可能となり、炉心の冷却機能が完全に失われ、炉心溶融から放射能物質の漏出を引き起こした重大事故です。
 現在も20キロ圏内は居住不可能で、60キロ離れた福島市内や200キロ離れた東京都内でも土壌が汚染され、高放射能地点が明らかになっています。
 事故から7ヶ月以上たった今も福島原発事故そのものの収束のメドも立たず、汚染地域が広がっている状況です。
福島市内で高セシウム=3カ月前より濃度上昇地点も−NGO(時事通信)
[転載]【署名】渡利の子どもたちを放射能から守れ!(リブインピースブログ)

(2)炉心溶融を引き起こすに至った全交流電源喪失については、原子力安全委員会委員長の斑目氏が、事故直後に、“安全設計審査指針は「長期間にわたる全電源喪失を考慮する必要はない」と規定しており、「明らかに間違い」”と認めています。これだけでも、誤った安全設計審査指針に基づいて現在稼働中の原発全てを停止しなければならない重大事案です。
原発を運転する上で不可欠な冷却水を循環させるための電気は、当原子力発電所ではなく他の発電所などから外部供給されています。今回の福島事故のように、周辺の原発の事故や送電線破壊で外部電力供給がストップし、さらには非常用ディーゼル発電機などの損傷によって、すべての交流電力の供給がストップしてしまうことを「全電源喪失」と言っています。電源車などによる直流電源は、中央制御室などへの電力供給を想定したもので、原発の冷却機能そのものを稼働させるものではありません。
●外部電源喪失時刻
1号機:11日14:47
2号機:11日14:47
3号機:11日14:47

●全交流電源喪失時刻
1号機:11日15:37
2号機:11日15:41
3号機:11日15:42
福島第一原発1号機事故経過
  

(3)原発には、「全電源喪失」に至っても、電気を必要としないで炉内に冷却水を供給するシステムが炉心溶融を防ぐ最後の命綱として存在します。福島第一原発1号機では、非常用復水器(IC)がそれです。
 今回福島第一原発ではこのシステムまでもが止まったことが、最後的に炉心溶融に至ることになったのです。
 しかもこのICの配管損傷が、津波ではなく地震そのものによって引き起こされた可能性があることが明らかになってきているのです。
 ところが政府、電力会社は福島原発事故の原因を津波に限定し、防波堤の増設など津波のみを対象にした緊急安全対策で原発の運転再開をしようとしています。
図解 よくわかる非常用炉心冷却系 ECCS

17:50原子炉建屋に放射能充満のなぞ

 東日本大地震が起こったのは3月11日14時46分です。地震を受け制御棒が自動的に挿入され原子炉は緊急停止します。地震によって鉄塔が倒れ送電線が寸断され、地震から1分後には「外部電源喪失」の事態がうまれます。15時30分過ぎに津波が襲来して全交流電源喪失に至ります。
 下記は東京電力が公表しているホワイトボードの記述内容です。
17:50 IC組撤収 放射線モニタ指示上昇のため.300CPM.
外側のエアロック入ったところでOS
廊下側からシューシュー音

 地震発生からわずか約3時間後という早い時間の17時50分には建屋に放射能が充満し、放射能を測るモニタが上昇し、ICを操作する作業員が持ち場から撤収せざるをえなかった。またエアロックに入った付近では計測器の針が振り切れる(OS オーバースケール:検出限界超)ほどの放射能が検出されていたこと、さらに「シューシュー音」までも聞こえていたことが判ります。
 このことは、17時50分までに原子炉内の水が大量に漏れ出し燃料がむき出しになり、燃料の冷却が出来なくなって、燃料棒の被覆管が破損し、大量の蒸気とともに放射能が圧力容器から格納容器を抜けて建屋に出てきたことになります。
 なぜ地震後わずか3時間で放射能が建屋内に充満したのでしょうか。燃料がむき出しになるほどの大量の冷却水は何処に漏れ出たのでしょうか。計測器が振り切れる程の放射能はどのルートから建屋に漏れ出したのでしょうか。

東電・保安院の解析の破綻
(1)東電・保安院の解析でのシナリオでは、17時50分に放射能が建屋内に充満した事態を再現できないのです。
 東電・保安院の解析のシナリオでは地震で配管の損傷はないことを前提としているので、蒸気や放射能は、原子炉内から逃し安全弁を通ってサプレッションチェンバー(圧力抑制室)へ、そして格納容器の圧力が上昇し、配管などの隙間から漏れたことになります。
 東電の解析では17時50分に原子炉内の水位が燃料頂部に達したとなっています。これでは17時50分に大量の放射能が建屋内に充満したことを再現出来ません。
 保安院の解析でも18時頃までは格納容器の圧力がほぼ1気圧で、建屋内の圧力と同じなのです。これでは建屋内に放射能が漏れるはずがないのです。このことは10月7日の交渉で保安院も認めています。また、逃し安全弁が開いたという証拠はないことも認めています。(逃し安全弁は原子炉圧力が7.4気圧を超えないと開かないようになっているが、超えていない)
 このことから、東電・保安院の解析でのシナリオの放射能漏えいルートは破綻しています。
10月7日の政府交渉での確認点  原子力安全・保安院の事故シナリオは破綻(美浜の会)

(2)ICは14時52分に起動します。しかし11分後の3時3分には作業員がICの弁を閉じ非常停止しました。この時点では、炉の冷却する機能は他にないにもかかわらず、なぜ止めたのでしょうか。この後、津波が来る15時30分までに起動、停止を3回繰り返したとされています。
非常用復水器操作、ベントの遅れ、2号機の衝撃音…手順書公開もなお残る謎(産経新聞)

 ICが機能していればICタンクの水は温められ建屋から外へ蒸気が出るはずです。しかし、蒸気がいつの間にか出なくなっていた事実が2回あります(18:18後と21:30頃)。これは圧力容器からの蒸気が配管を通じてICタンクまでいっていない可能性を示唆しています。
 IC配管は原子炉から格納容器の外へ貫かれています。その配管が地震で損傷し、起動停止を繰り返すうちに損傷が拡大し、地震発生後わずか3時間で建屋に「シューシュー音」を伴い蒸気とともに放射能が充満したのではないでしょうか。そして18時18分に起動したときには、蒸気をICタンクまで届けることが出来なかったと考えるとつじつまがあうのです。

弁が閉じてICが止まったのは「配管破断信号」と東電は説明
 ICにはA、B系の両系に4つの弁があり、第3弁以外は常に開いています。ところが開いているはずの第2弁がいつの間にか閉まっていました。東電は「非常用復水器の配管破断信号が出たため」と認めています。しかしそれは、誤信号で配管は破断していないと勝手な解釈をしています。しかし、地震発生からわずか1時間34分しか経っていない16時20分には、原子炉内の水位が低下して燃料頂部に達しています。なぜこんなに早く冷却水がなくなってしまったのでしょうか。
 配管破断信号は誤信号でなく、本当に破断していてそこから放射能混じりの大量冷却水が漏れだしていた、そのためICは機能しなくなり、炉心溶融に至ったのではないでしょうか。そして地震発生後わずか3時間の17:50に放射能が格納容器の外の原子炉建屋で充満したのではないでしょうか。
 10月7日の交渉でも、地震で配管が損傷した可能性を否定できないと保安院は認めました。実際に配管破断があったのかどうかを確認出来ていないのです。
TBSで放送された番組「福島第一原発の180日」では、専門家が“誤信号で止まったICの弁を手動で再運転させなかったことが問題で、この事故は人災だ”と語っています。しかし最終的にICが再運転をするのはメルトダウンが始まっている18時18分のことで、再運転した直後にまた止まっています。これは、ICがずっと運転できる状況にはなかったことを示しているのではないでしょうか。
 福島第一原発の180日

福島原発事故の経緯さえ明らかになっていない下で、大飯3号機を再稼働すべきではない。
(1)以上のような福島第一原発事故が明らかにしていることは、津波到来での全電源喪失による冷却機能停止で、ICも機能せず完全な冷却機能喪失に至ったこと、そしてそのICは津波ではなく、地震によって破壊されたことです。
東電、保安院は、「誤信号」といいながら実際に配管破断があったのかどうかを確認できていません。それは上述のように当該カ所の放射能値が高く、破断があったのかを確認しにいくことができないからです。また、東電はホワイトボードに実際にその文字を書いた人物がだれで、どういう事態であったのかも公表していません。
福島第一原子力発電所1号機非常用復水器

 10月20日、東電は、10月18日に福島第一原発1号機に入ったという映像を公開しました。そこでは、がれきが散乱している状態で、線量計の音量がただ事ではなくて67ミリシーベルトと高線量を示しています。そして東電社員が、じっくりと配管を見ることができるような状況でもないのに、単なる目視で「配管は大丈夫そうですね」としゃべっているのです。しかも、配管の損傷を調べるために保温剤をはぎ取ったわけでもなく、下には水たまりがあり、決して“配管は大丈夫”と言えるものではないのは明らかです。この映像は逆に配管破損の疑いを深めるものです。

 仮に本当に誤信号でICが止まったのだとすれば、それが意味していることは、装置が誤信号を発するだけで冷却水の供給がストップして炉心溶融にまで至ってしまうという原発事故のおそろしさです。
 「ICさえ動いていれば」、「配管さえ無事であれば」「誤信号さえでなければ」「津波対策さえできていれば」という「たら・れば」を積み重ねるとすれば、結局「津波さえ来なければ」「地震さえ来なければ」という根本的なところに行き着き、地震・津波大国日本に原発を運転することそのものの問題にいきつくのではないでしょうか。

(2)福島原発を襲った地震の揺れは、基準値の4分の3に過ぎない448ガルであり、東電は「地震は想定内だが、想定外の津波で全電源喪失に至った」としていますが、1号機の事故の経緯をみれば、想定内の地震によって冷却機能が失われた可能性が極めて高いのです。
 東電は3号機についても当初、地震の揺れによって高圧注水系(HPCI)の配管が破損していた可能性があるとする報告を出していましたが、「再解析」の結果、やっぱり破損はなかったとする報告に変えています。1号機との整合性をもたせるためにあえて変更した可能性もあります。
 いずれにしても「コンピューター上の解析」であり、現場検証などが十分に行われていないということも含め、福島第一原発がメルトダウンを引き起こすに至った経緯はまだまだ解明されていません。
 その下で大飯3号機を再稼働することなど、認めることはできません。

2011年10月29日
リブ・イン・ピース☆9+25