大失敗に終わった米の「人道支援強行」
グアイドの挑発をたたきつぶした人民の力

 2月23日、ベネズエラの「暫定大統領」を僭称するフアン・グアイドは米国による「人道支援物資」を「飢えと薬不足に苦しむ」ベネズエラに運び込むと大騒ぎし、世界中のマスコミを引き連れ、「ベネズエラ・エイズ・ライブ」と名付けた大コンサートを開き注目を引きつけた。しかし、彼らの行動はコロンビアとブラジルの国境の橋の上で、自分たちが運んだトラックと「人道支援物資」に自分で火をつけ、燃やしただけの空騒ぎに終わった。ベネズエラ国内からは誰も駆けつけず、ベネズエラに米の介入を引き入れ、内戦をもたらすグアイド派の強行入国を阻止するために多数の人々が立ち上がった。

(1)はじまりは「橋のウソ」
 2月6日にポンペオ国務長官はマドゥーロ政権が「人道支援物資」の運び込みを阻止するためにベネズエラのティエンディタス橋をトラック・コンテナで封鎖したと世界中に宣伝した。米国のメディアは早速このニュースに飛びつき、世界中に広げた。しかし、すぐにこのポンペオの宣伝は真っ赤な嘘であることが分かった。この橋は作られて以来一度も使われたことがなく、阻止のための封鎖などではなかった。使われなかったのは、道路と橋が完成したのに、コロンビアが建設費用分担分を払わなかったからだ。欧米のメディアの一部(カナダCBC)だけが、ずっと後になってニュースを訂正したが、多くはそのまま垂れ流した。日本のメディアも、ロイターやAFPなど海外メディアのフェイクニュースを垂れ流し続け、「人道支援」をブロックしたと大騒ぎをし、マドゥーロ政権が独裁で、圧政で、国民のことを何とも思わない非道な政権であるかのように報道した。訂正したという話は一度も聞かない。ほとんどのマスコミが間違っていると知っていても、そのままマドゥーロ政権の「悪行の例」として広げ続けたのだ。ベネズエラ問題は日本のメディアのモラルが崩壊しているとしか言いようがない酷い状態にあることを示した。

 当初は、なぜこんな話をでっち上げたのか分からなかった。しかし、グアイドが「人道支援物資」を国境を突破して搬入するという23日が近づいてきて理由がはっきりした。この橋のすぐ向こうのコロンビア側で「ベネズエラ・エイズ・ライブ」という大規模ライブをやって世界中の注目を引きつけ、そのまま「人道支援」と称して国境に突っ込んでいこうとしたのである。はじめから注目させる場所として目立たせるためにフェイクニュースを流したのだ。しかも、ポンペオがツィッターに発信した2月6日にはすでに国境で大騒ぎや流血沙汰を作り出し、内乱に持ち込んだり、できれば軍事介入の口実にしようという計画があったのだ。米国が「計画通りに」ベネズエラ・マドゥーロ政権打倒を進めようとしていることの証拠である。


(2)何が「人道支援」だ。内乱に導き、人民に多大な被害と流血をもたらすための卑劣な行動だ
 2月中旬に米国は「人道支援物資」をコロンビアとブラジルに運び込み始める。両国の極右政権がこれに加担することにしたからだ。
 「人道支援物資」を運び込んだのはCIAの別働隊として数々の途上国介入に悪名を響かせる米国国際開発庁USAIDだ。しかも輸送したのは米軍の大型輸送機C17だ。「人道支援」というけれども、本当にそうなのか。グアイド側に武器を渡すためではないのか。実際ベネズエラのバレンシア空港に米国21エアの貨物機が19丁の小銃と119の弾薬カートリッジ、数十の照準スコープの密輸を試みて発覚している。この飛行機は1月11日以来マイアミとベネズエラのカラカス、バレンシア、コロンビアのボゴダ、メデジンとの間を40回も飛行している。武器の密輸を繰り返していたとも考えられる。
※詳細は「差し迫る紛争と軍事介入の危険 軍事介入の口実作りのための「人道支援作戦」をやめろ」参照

 本当にベネズエラでの人道支援というなら、なぜ直接ベネズエラに飛んでマドゥーロ政権に届けないのか。現に、キューバやロシアから食料や薬が届けられている。キューバからだけで933dにものぼる。米の「人道支援」には国連や国際的な人道支援団体の全部がそっぽを向き、協力を拒否した。国連報道官ステファン・デュジャリックは「人道的行動は政治的、軍事的及びその他の目的からは独立したものであることが必要だ。」と批判した。誰の目から見ても、米国の行動が「人道援助」などではなく、クーデターを起こそうとしているグアイドに肩入れし、機会があれば軍事介入するためのものであることは明らかだったのだ。逆に、日本でもメディアが全部そのことに目をつぶって、「人道支援」の大コーラスに合唱したことが全く理解できない。

(3)そこで問題の「ベネズエラ・エイド・ライブ」だ
 22日にティエンデタス橋のコロンビア側でライブが始まった。全部の資金を出したのはイギリスの大富豪「リチャード・ブランソン」だ。彼はバージン・レコードの創始者でバージングループの総帥。入場料は無料。莫大な資金で有名な出演者をそろえ3日間ライブをするという。一つの国家を打倒するためのチャリティ(寄付集め)コンサートなど聞いたことがない。莫大な赤字に終わってほしいものだ。30万人以上集まったと主催者はいうが、敷地面積から4万人程度ともいわれる。しかし、これだけ大量の人を集めてどうするのだ。気勢をあげて「支援物資」をひさげて、ベネズエラに突っ込むのか。それは良くて「密輸」、実際には暴動の煽動、組織に他ならない。
 コンサートの様子はツィッターで流されているが、内容がよく分かるシーンがある。出演者がシオニストの旗(イスラエル国旗)を掲げてパーフォーマンスしているのだ。これこそ彼らの心情をよく表している。どこに人道支援があるのか。マドゥーロ政権と社会主義指向に対する憎しみを煽っているだけである。
 このコンサートに対して、伝説的バンド「ピンクフロイド」の共同創始者ロジャー・ウォーターズ氏は「コンサートはベネズエラ国民の必要とするものとは関係がなく、民主主義や自由とも関係がない」「米国のベネズエラ侵略に手を貸している」と強烈に非難している。全くその通りだ。

 

 そして、コンサート会場にはグアイドがいる。コロンビア大統領と並んで参加したのだ。この場所に、彼の煽動に同調して集まってきたグアイド派の連中と一緒に、次の日の朝(23日)、国境で大きな騒ぎを起こし、流血沙汰を作り出し、マドゥーロに責任を押しつけてベネズエラに凱旋しようというのだろう。しかし、その思惑は流血と戦争を望まないベネズエラ人民の決意と団結によって脆くも崩れさることになる。

 マドゥーロ大統領と人民は黙って見ていたのではない。米国はブラジルとコロンビアから国境を押し通ってベネズエラに乱入する、あるいは武力紛争に仕立て上げたいと思って米国国際開発庁USAIDや群衆をそそのかして国境の橋などに押しかける準備をしていた。ベネズエラ政府は、この策動を阻止し、流血の衝突を避けるために両国との国境閉鎖を宣言した。そして、現地の民衆はマドゥーロ大統領の呼びかけに答え、大規模な人間の壁、数千人から数万人の大集会を開いて、決して通さない、内乱は許さないという決意を自らの力で示した。

 人民大衆だけでなく、軍隊も国境警備部隊も全く揺るがなかった。「軍隊の8割はマドゥーロに反対だ」とグアイドは言明していたが、事実は全く反対だった。ほんの一握りの脱落者(かれらは後にコロンビア側に逃げた)を除いて兵士は誰もグアイドの側につかなかった。国家機構の全体がマドゥーロ大統領の下に結束し、揺るがなかったのだ。
 確かに物資は不足している、生活も苦しいかもしれない。しかし、それは米がベネズエラの銀行口座を押さえ、経済制裁で物資を禁輸しているからとみんなが知っている。いま米の行動を許せば、ベネズエラが侵略され、血の海にされると皆が分かっている。逆に、マドゥーロ大統領と政府が、極めて厳しい状況の下で必死になって供給・生産地方委員会CLAPで食料・薬を配給し、生活を支えていると知っているのだ。ベネズエラの富裕層の不満分子が激昂して、グアイドに同調し、米の軍事侵略さえ待ち望んでいるのと反対に、人民大衆が一歩も引かず、国を守り切ったのはそこに原因がある。

 


(4)そして運命の夜が明け、23日になった
 マイアミ州の上院議員ルビオは最も強烈にマドゥーロ打倒で運動している人物だ。彼はツイッターで「反対派は誰も武装していないのに、あと数時間でマドゥーロ政権側のギャングたちが襲いかかるぞ」と予言した。市民の皮を被ったギャングとか言うのは実際にはおまえたちではないのか。自分たちが襲撃の計画を立てているから、数時間でなどと言えるのだろう。

 

 夜が明けてすぐにコロンビアとブラジルの国境では騒動がけしかけられていると報道された。いわく「人道支援物資をとおせ!」と。早朝から国境のチェックポイントを越えようとする右派と制止する国境警備隊の小競り合いやチェックポイントの焼き討ちが報告されている。
 ブラジル国境の町サンタ・エレナ・ウアイレンでは国境警備のチェックポイントやバス、車などがグアイド側の暴徒らに焼き討ちされて夜が明けた。

 ベネズエラ・ウレナの町のNBCの報道。ちゃんとカメラマンが後ろでスタンバイしている。ビデオなので見て貰えば分かるが、人数は非常に少ない。数十人が警察に投石し、火焔瓶を投げる程度。それをしっかり撮影する。
 https://twitter.com/NBCNews/status/1099422915257348096

 上で紹介したような散発的で小規模な暴力はあったが、グアイドが予言したような大規模な民衆の呼応とマドゥーロ政権に対する抵抗はなかった。何よりも、ベネズエラ国内から国境に向かって「人道支援物資」を受け取りに行けとグアイドは呼びかけ、60万人が登録したと言うが、誰も姿がない。ツィッターなどでも、国境手前のチェックポイントで突破しようとしたトラックがあったといくつか報じられただけだ。民衆が群れをなして国境に押しかける姿などどこにもなかったのだ。

 ベネズエラから誰も来ない、国境警備隊も軍隊も誰も寝返らない。行き詰まって困ったのはグアイドである。彼は渋い顔をして、コンサート会場でうつろな顔で空を見上げる。

 

 人々は来ない、彼らはどうしたのか。実は予定通りの行動に移ったのだ。
 朝になって、次々とメディアは国境の橋で「人道支援物資」が燃えているのを報道した。政府側が火を付けたかのように報道する。しかし、疑問がある。国境警備隊はトラックの前に離れて一列の阻止ラインを引いている。(下の写真)。どうやって火を付けたというのか? もっとおかしいのは、この写真では二つの国境の橋でトラックが燃えている。どこでも同じ事をすることになっていたのではないのか。つまり、トラックに自分で火を付けて気勢を上げる、それを政府側がやったことにする、そうすることになっていたのではないか。

 

 実は、このあとteleSURがこの問題に明快な答えを出してくれた。それが上のビデオだ。(下のリンクをクリックしてみてほしい)。ビデオはグアイド派の暴徒が、トラックに乗って橋を渡っていき、さらに自分たちでトラックにガソリンをまき(右の図)、そして火を付けたこと、さらに国境警備の部隊に向かって火炎瓶を投げつけて攻撃してきたことの一部始終をきっちりと記録している。これがグライドの計画だったのだ。トラックを燃やしただけで終わったが、グアイドはあわよくば流血の事態に持ち込み、米の軍事介入を引き起こそうと思っていた。それしか自分が大統領になる道はないのだ。
 https://twitter.com/telesurenglish/status/1099502297749557249

 国境での暴動は完全な空振り、失敗に終わった。そして、23日のカラカスでのグアイド派の集会も人数が少ない。気勢の上がらないものになった。明らかになったのはグアイドに人民大衆はだまされず、彼には国内に何の権力も権力機構もないことだ。


(5)マドゥーロ大統領とベネズエラの人民は前に進む
 一方、マドゥーロ派もカラカスで大規模な集会を開いた。演壇から旗を振るマドゥーロ。道を埋めてそれに応える人々。米国とその手先であるグアイドの挑発を完全に失敗させたことは大きな自信となるだろう。人民の信頼と権力は少しも揺るがなかった。たしかに極めて厳しい状況を押しつけられている。経済制裁、金融封鎖。とてつもない困難の中で悪戦苦闘しながら、それでも楽観的な気分をなくさずに進むマドゥーロ大統領とベネズエラの人民には賞賛の気持ちを持たずにはおられない。


 最後に。カラカスは平穏だ! ツィッターを見ていると、何とハンドルを握ってカラカス市内をリポートするマドゥーロ大統領。集会に向かう途中だろうか。隣には大統領夫人が乗っている。この心の余裕があるかぎりグアイドとトランプには負けないだろう。
















 しかし、トランプと米軍介入の危険はなくならない。地上ではマドゥーロ大統領がグアイドを撃退しているときに、ベネズエラ沖では米軍の電子偵察機がスパイ飛行を続けていた。
 最も重要な問題は、ベネズエラで起こっていることの真実を伝えないマスコミにあるのかもしれない。真実でないのに真実であるかのように伝えるのが平気になったのか。まるで嘘を平気でつく安倍首相の癖がうつったかのようだ。わずかな救いはだんだんと今の事態はおかしいと声を上げる人々が日本でも増えていることだ。
 介入の危険は続く。われわれも真実を見抜く力を鍛え上げ、ベネズエラの人々への支援と連帯の力を強めよう。

2019年2月25日
リブ・イン・ピース☆9+25 W