米軍は、ベネズエラに対する戦争挑発をやめろ
直ちにカリブ海から艦隊と強襲揚陸部隊を引き上げろ

(1)米艦隊・強襲部隊のベネズエラ沖への派遣糾弾
 米軍はベネズエラに対して戦争挑発を始めた。イージス駆逐艦3隻、強襲揚陸艦イオージマをはじめ揚陸艦3隻と海兵隊4000人、原子力潜水艦、イージス巡洋艦、そして、哨戒機などをベネズエラ沖に結集させている。この軍事行動は米が宣言する「麻薬密輸対策」などではない。陸上を攻撃したり強襲上陸作戦を行うための艦隊であり、はっきりとベネズエラに対する軍事介入、戦争挑発を目的としている。艦隊の動きに連動してベネズエラ国内でテロやクーデターで呼応しようとした動きは事前に発見されて押さえ込まれている。米軍は今後数カ月も行動する予定で、長期にわたってこの地域で緊張を煽り、戦争の火種をばらまこうとしている。
 われわれは、米がベネズエラに何度も政府転覆のためのクーデターや傭兵を使ったテロ、暗殺計画を繰り返した上に、とうとう米軍本体が戦争挑発に乗り出してきたことを糾弾する。米はベネズエラに対する政府転覆工作や制裁をやめろ。直ちにベネズエラ沖から艦隊、上陸部隊を引き上げろ。

(2)「麻薬密輸対策」は真っ赤なウソ。狙いはベネズエラ
 ニューヨーク・タイムスによれば、8月8日にトランプ大統領は、外国のテロ組織とレッテルを貼られた麻薬密輸カルテルと戦うために軍事力の行使を認める秘密の大統領令を国防総省に出した。そして、8月7日にはマドゥーロ大統領の逮捕、有罪につながる情報提供の褒賞金を2500万ドルから5000万ドル(75億円)に引き上げた。それに先立つ7月25日に、財務省は「太陽のカルテル」(米国がでっち上げた架空の麻薬組織)をテロ組織として指名し、その首領がベネズエラ大統領マドゥーロであると決めつけた。さらにこの組織が「トレン・デ・アラグア(ベネズエラ、すでに消滅した)」「シナロア(メキシコ)」という麻薬カルテルと関係がある暴力的なテロ組織であると主張した。その上でこれらの麻薬密輸カルテルに対する軍事攻撃を承認したのだ。
 「麻薬密輸対策」という口実だが、この秘密の大統領令は戦争を行うためには議会の承認が必要であるという米国内のルールを回避するものだった。トランプは議会の承認なしに勝手に大統領が戦争を行なえるようにしたのだ。そして「麻薬密輸対策」と宣言すれば武力による威嚇や武力行使を禁じている国際法さえごまかせると考えているのだ。
 その上で、今回の艦隊と強襲部隊のベネズエラ沖派遣だ。はじめからことを起こすこと、軍事的衝突や戦闘を目論んでいることは明らかだ。
 上述のように、米国はこれまで何度も強硬派野党を操って政権転覆を試み、暴力的なクーデターを起こしてきた。2019年にはグアイドに「暫定大統領」を僭称させてクーデターを起こした。それを根拠に米国は大規模な経済制裁を課した。ジェフリー・サックスらによれば、その結果4万人の市民が過剰に死亡したという。2024年もゴンサレス候補とマチャドらが大統領選挙の選挙結果をでっち上げようとし、失敗するや暴動とクーデターを起こそうとした。しかし強硬派野党によるクーデター計画はことごとく失敗し、結局、国内政治は正常化した。国会でも地方自治体選挙でも与党会派が多数派を形成した。国内政治に付け入るスキがなくなってからは米国はCIAや傭兵によるテロ、暗殺を試みた。マドゥーロ政権を打倒するためには、ありとあらゆる手段を使った。しかし、外からの間接的な試みはことごとく失敗し、とうとう米国自身が乗り出して軍事力で直接ベネズエラを攻撃しようとしているのだ。今回の軍事干渉と同時にベネズエラ国内で爆弾テロ等を引き起こそうとしたたくらみが事前に摘発されている。
 トランプとネタニヤフは本質においてそっくりの双子だ。トランプは自分の支持者向けに麻薬密輸対策を大げさに演出し、支持拡大に使おうとしている。同時にベネズエラの石油資源を自分のものだと考え、実際に我が物にしようとして軍事力を振りかざしている。文字通り砲艦外交だ。ベネズエラの人々の命を虫けらのようにしか思っておらず、戦争によってどれだけ彼らが被害を受けようと少しも気にかけない。ベネズエラの人々を見下し、すべては自分のもので、力で取り上げうる獲物だと考える入植者植民地主義者の本質が両者に露骨に現れている。パナマ運河も、カナダも、グリーンランドも俺のものだ、ガザも西岸も、レバノンもシリアも俺のものだ。占領して何が悪いという醜悪な姿は全く同じだ。
 世界の反戦平和運動はネオファシスト・ネタニヤフと同様に、ネオファシスト・トランプの蛮行、侵略と攻撃、略奪、地域の不安定化に対して断固として闘い、阻止していかなければならない。

(3)ベネズエラ、周辺のラ米・カリブ諸国は米国を非難
 ベネズエラ政府は、米国に対してベネズエラを麻薬国家であるかのように宣伝するデマを直ちに撤回し、戦争挑発をただちにやめるように要求している。米国の主張は一国の大統領を「麻薬密輸組織の首領」呼ばわりする荒唐無稽な作り話である。その証拠は何一つ提示されていない。そしてこの図式は米国がラテンアメリカの諸国に軍事介入やクーデターを仕掛けるときに常時使う「口実」なのである。事実かどうかは関係ないのだ。ベネズエラは国連総会に対して、この地域に原子力潜水艦を侵入させることは非核地帯化を決めたテトラトルコ条約に違反すること、また米軍の軍事行動がこの地域を平和地帯として武力による威嚇や武力行使を避けるとしたラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体(CELAC)の宣言と対立すると指摘した。地域の安定を破壊し、緊張と戦争を持ち込むものだと批判した。
 ベネズエラだけではない。周辺の諸国がこぞって米国の戦争挑発に脅威を感じ反対している。コロンビアのペトロ大統領は米軍の行動に対して直ちにラテンアメリカ諸国の外相会議を呼びかけた。コロンビアもベネズエラとの国境付近に兵力を増派しているが、これは両国で協力して麻薬対策を強化するとともに、米国の侵略に備えるためである。コロンビアはベネズエラと協調し、ベネズエラに対するいかなる介入や行動もコロンビアとラテンアメリカ全土に対する侵略とみなされると警告した。トランプはメキシコに対しても、麻薬カルテルに対するメキシコ国内での軍事力行使を指示したが、これに対してメキシコのシェインバウム大統領は、主権は売り物ではないと、国内での米軍展開に強い不快感を表明した。
 この地域ではキューバを先頭に、ニカラグアやカリブの諸国が米国の戦争挑発に反対している。キューバは米の戦争挑発が作り出す危険に対して警告した。米州ボリバル機構ALBAも直ちに首脳会議を開いて対応した。さらに中国やロシアもベネズエラを全面的に支持し、米国に対して国家主権を尊重し、内政干渉・介入を行なうことに反対した。

(4)防衛体制を固め侵略を許さないベネズエラ
 米国の戦争挑発に対して、ベネズエラは直ちに防衛体制の強化に入った。マドゥーロ大統領は、米国の行動を「不条理で常軌を逸した脅威」と断じ、「帝国主義国家の挑発」であると強く非難した。大統領は「特別治安計画」を公表し、全国民に民兵への志願を呼びかけ民兵組織の強化と組織化に乗り出し、450万人を民兵として組織化し指導する態勢に入った。重要なことは、民兵組織を全国に組織されたコムーナと固く結びつけ、サポートする体制をとったことだ。いわば「全人民の武装」体制で米国の侵略に備えて自衛態勢をとっている。もちろん総兵力8万人の正規軍も防衛体制にあり、この8月には特に重要な国境地帯に1万5千人の兵員を配置した。空軍、海軍も防衛に向けて体制を強化している。ベネズエラの防衛力は決して小さなものではない。たとえ米軍であろうと簡単には手を出せない防衛体制だ。
 一方、米艦隊は特定の限られた地域に対しては局所的に強い攻撃作戦と上陸作戦を遂行できる。しかし、ベネズエラに対する大規模な攻撃を行うことは到底できない。せいぜい国境付近での小規模な攻撃と衝突ができるにすぎない。もちろんカラカスなど主要都市に対する突発的な攻撃は不可能ではないが、軍事的優位を維持することはできない。一番ありうるのは軍事的威嚇を繰り返し、相手に軍事的緊張を与え続けることだ。
 トランプは明らかにベネズエラの石油資源を狙っている。新聞はトランプがベネズエラの石油を我が物としようとしていることを伝えている。しかし、米国には財政力でも軍備でも大規模な戦争をラテンアメリカで引き起こす余力はない。相手の国が内部で混乱して崩壊するのでなければ、長期間の戦争に突っ込むことになるが、そんな力はない。国民向けの派手な演出として、ベネズエラに対する威嚇行動、あるいは「麻薬密輸組織」への攻撃を宣伝するのがせいぜいだ。しかし、トランプはベネズエラの石油は自分のものだと考えている。トランプはベネズエラを見下しているのだ。トランプとアメリカ帝国主義が何をするのか予想することができないし、偶発的な衝突が拡大し、持続していく可能性は否定できない。その意味では、世界で最も危険な軍隊が衝突を求めて挑発を行う、極めて危険な状況が生じているのだ。

(5)ベネズエラは「麻薬対策」の優等生
 そもそも麻薬密輸と言うが、ベネズエラは麻薬の主要な生産国ですらない。国連の麻薬と犯罪に関する機関UNODCの局長で、国連事務次長であるピノ・アルラッキによれば、世界の麻薬(ヘロイン)の生産国の上位はコロンビア、ペルー、ボリビアある。ベネズエラでは麻薬の生産はほとんど行われていない。そして、米国や欧州への麻薬密輸ルートはベネズエラの近くにはなく、中継基地にもならない。アルラッキは麻薬対策でのベネズエラの協力は最高のもので、非の打ちどころのないキューバに並ぶと言っている。
 トランプの麻薬密輸国呼ばわり、マドゥーロ大統領の麻薬密輸団首領呼ばわりは何の根拠もない全くの言いがかりにすぎない。ベネズエラを麻薬密輸国化、悪魔化して描くことは米の常套手段だ。そう主張することで、国際法を蹂躙し、国家の主権を侵害する侵略、クーデター、テロなどあらゆる侵略的軍事行動を正当化し、自由自在に中南米諸国を蹂躙して従わせることができると考えている。そのための作り話だ。
 しかも、ベネズエラは麻薬密輸組織や武装ギャング団の取り締まりに力を入れてきた。国内の麻薬密輸組織はほぼ壊滅させた。コロンビアとベネズエラは協力して国境近くにある麻薬密輸組織の壊滅に一緒に動いている。もともと親米政権で、七つの米軍基地が置かれ、米の麻薬局も置かれていたコロンビアでは、その体制の下で麻薬密輸組織が拡大し続けてきた。今の政権がその取締りに取りかかっている。ベネズエラやコロンビアに対して、軍事行動をしたり威嚇をしたりすることは、密輸組織に対する政府の取締りを弱体化させるものに他ならない。麻薬密輸対策などではなくて、麻薬密輸を野放しにするための方策であるのだ。
 さらに、麻薬の最大の消費国はオーストラリア、ニュージーランド、米国、スペインだ。西側諸国が消費者だ。トランプが自国内の麻薬密売組織を取り締まれば問題は解決する。安価な労働力として使いながら突然「不法移民」だと軍隊を投入して弾圧し、逮捕し追放する。またワシントンをはじめ大都市に州兵を投入して軍事支配をする。かつてなく異常な軍事支配、市民の武力による押さえつけを平気でするトランプ政権は、麻薬対策に対して真剣な対応をとっているようには思えない。さらに麻薬の消費を抜本的になくすためには国内における貧困対策に真剣に取り組むことが必要だが、トランプのやっていることは逆で、富裕層を富ませ、貧困層をさらに貧困にさせる政策だ。その下では麻薬に逃げる人々が出てきても不思議ではない。ベネズエラに軍を向けても解決しないし、まったくのお門違いだ。

(6)米国は戦争挑発をやめて、カリブ海から出ていけ
 米国の主張する「マドゥーロ=麻薬密輸組織首領説」が全くの作り話で、米艦隊の目的が「麻薬密輸対策」ではなくベネズエラに対する軍事威嚇、戦争挑発であり、あわよくば国内で混乱を起こし政権転覆を狙っていることは明らかだ。それは国連憲章を蹂躙して他国に対して武力による威嚇、武力行使を行なうものだ。当然国際法違反としてトランプは全世界から非難されなければならない。
 世界の主要メディアは米艦隊が「麻薬密輸対策」で出動し、「武力行使の可能性がある」ことしか報じない。ベネズエラを「麻薬国家」であるかのようにいうウソも批判しないどころか、マドゥーロを「独裁者」のように扱う。そして、まるでベネズエラに対する威嚇や武力行使が当然のことであるかのように米国を支持する。それはメディアだけではない。G7と同盟国はこれほどあからさまな国際法違反を米国が行おうとしているのに、それを批判する国はない。日本政府も同様だ。賛成か、容認か、沈黙かである。入植植民地主義者で、いまだに植民地主義がしみつき、自分たちが世界を支配するのが当然だと考える彼らは、人々の目から米国の侵略的軍事行動がいかに戦争犯罪であるかを隠しているのだ。
 しかし、それが通用するのは西側諸国だけだ。ベネズエラと周辺諸国は米国を非難し、キューバや中国も非難の声をあげている。ベネズエラは防衛体制に入った。グローバルサウスと呼ばれる世界の大多数の国々でも米国の侵略を非難する声が当たり前だ。彼らは米国がまた植民地支配を復活させようとしていると見ている。
 われわれは、米国のベネズエラ沖への艦隊、強襲揚陸部隊の派遣を糾弾する。軍事威嚇と戦争挑発をやめ直ちに撤退させるよう要求する。米国に対してベネズエラに対する政権転覆策を放棄し、すべての制裁を解除するよう要求する。われわれは世界の人々と手をつないで、米国がカリブ海で新しい戦争を開始しようとすることに全力で反対する。

2025年8月31日
リブ・イン・ピース☆9+25