[シリーズの最後となる本稿<その4>では、これまで明らかにしてきた植民地支配、帝国主義的収奪の歴史的経緯をふまえ、あらためてハイチ地震に立ち返り、真の支援とは何かを問題にしたい。] あらためてハイチ大地震について考える 1月のハイチ大地震は政府発表で死者23万人超、被災者300万人以上という未曾有の大災害となったが、その原因には「人災」としての側面もあるということが、マスメディアでも多く語られた。だが、そこで言われる「人災」とは、人民大衆の貧困と極度の貧富の格差、独裁政治と政治的混迷、汚職と腐敗の蔓延など、ほとんどハイチ国内の問題ばかりである。その根底にある根本的原因としての、今なお続く帝国主義的支配・収奪とその歴史的な根深さについては、語られていない。本シリーズで見てきたように、ハイチの国内問題として現象しているさまざまな否定的側面は、米国やフランスという帝国主義大国がハイチを植民地支配のくびきの下に置き、徹底的に略奪してきたことの不可避的な結果である。 特に、ここ30〜40年にわたる新自由主義による収奪と米国による度重なる内政干渉は、ハイチを国家崩壊状態にまで至らしめていた。国土は荒廃させられ、森林面積は激減して1950年頃には国土の25%、現在はわずか数パーセントにすぎなくなっている。農業は壊滅状態に追い込まれ、国民総生産に占める農業の割合は、1980年代初頭に50%であったのが90年代には27%へと減少していた。土地を失った農民が大量に首都へ流入し、現在人口約1,000万人弱のうち約200万人が首都に集中している。その首都の大部分を占める貧民地区は、生活基盤インフラが欠落し、貧弱な住居が密集していた。そこへ大地震が直撃したのである。 米国の軍隊派遣とキューバの医師団派遣 ハイチへの支援で根本的に重要なことは対外債務を無条件で帳消しにすることであるということは、<その2>で既に述べた。その際、全世界からの巨額の支援金を米国が牛耳ろうとしているのに対して、ベネズエラはハイチの歴史に敬意を表した上で、ハイチに対する国家債権を無条件で放棄したことを指摘した。その上で、実際上の現地での支援活動はどのようなものでなければならないか、ということについて考える際に、2つの鮮明に対比される行動があったことを知らねばならない。 米国は、海兵隊を中心に総勢1万人にものぼる軍隊を派遣した。治安維持という名目である。だが、米軍がハイチの空港や港湾の管制権を掌握して押さえたために、「国境のない医師団(MSF)」などの医療支援活動に支障が生じたことが、現地を知る人々の間ではよく知られたこととして語られている。米国の軍隊派遣の真の目的は、ラテンアメリカ諸国に対する米国の帝国主義的な支配・抑圧と政治干渉に公然と反発しているキューバやベネズエラなどのALBA(米州ボリーバル同盟)諸国に対する、軍事的圧力の強化、誇示である。フランスも派兵した。日本も米国に追随して自衛隊を派遣した。 ※ハイチへの自衛隊PKO派遣をやめよ!(リブ・イン・ピース☆9+25) それとは対照的に、キューバは約400人の医療関係者が、地震発生直後から救援活動を開始し、生存者救済にとって決定的に重要な初期段階でのほとんど唯一の医療活動をおこなった。 キューバのハイチへの医療支援は、1998年以来10年以上にわたっておこなわれてきた。そのきっかけは、この年のハリケーンによる大きな被害に対する医療支援であった。その後、「総合保健プログラム」を通じて、のべ6,000人以上のキューバ人協力者が医療協力してきた。キューバとベネズエラは、ハイチに総合診断センターを5ヵ所建設した。その医療協力の結果は、統計数値に明瞭に表れている。1999年から2007年までの間に、ハイチの新生児1,000人当たりの死亡は80人から33人に、5歳未満の幼児死亡は1,000人中135人から59人に、出産母体死亡は10万人中523人から285人に、平均寿命は54歳から61歳になった。このような地道な協力活動をおこなってきたからこそ、地震発生直後から重要な救援活動ができたのである。 「国境のない医師団(MSF)」も多くのスタッフを送り込んで医療活動を行った。米国やカナダの医療関係者も多く活躍した。それらも含めて、地震発生から3月下旬までの主たる医療支援活動についての統計がある。それによれば、現地で医療支援活動をおこなったスタッフは、MSF 3,408人、カナダ45人、米国550人、キューバ1,504人。治療患者数は、MSF54,000人、カナダ21,000人、米国871人、キューバ227,143人。外科手術件数は、MSF 3,700件、カナダ0件、米国843件、キューバ6,499件。 何が本当の支援であるのかは、一目瞭然であろう。「我々は兵士ではなく医師を送る」とフィデル・カストロは述べた。だが、このようなキューバの医療支援については、大手マスメディアはまったく報じなかった。逆に、米国やフランスの派兵、さらには自衛隊の派遣を正当化するために、「破綻国家」ハイチは、外国の「支援」なしには治安も保てない国だと書きたてた。私たちは、このようなマスメディアの宣伝や偽善に惑わされることなく真実を直視する眼をもたなければならない。 (完) 2010年5月6日 Haiti:Beyond the Mainstream Messages. Meet the Truth!(klimaforum09) Venezuela's Chavez Forgives Haiti's Debt(venezuelanalysis.com) Cuban Medical Aid to Haiti(Counterpunch) ハイチにたいするキューバの医療援助の主要点、地震以前および地震を通して(キューバを知る会・大阪) 『慟哭のハイチ』(佐藤文則 凱風社) 『ハイチの栄光と苦難』(浜忠雄 刀水書院) 『銃・病原菌・鉄(上・下)』(ジャレド・ダイアモンド 草思社) |