キューバツアー報告会[報告集]
老人クラブとの交流会と高齢者施策

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 老人クラブはサンタフェという町にありました。1920年に建てられ修復された古い建物で、目の前はやわらかな日差しと広々とした海が広がっていて別荘のような雰囲気の立地でした。中央の広い部屋に通された私たち訪問者を、40人ほどのおしゃれをした高齢者が取り囲むように拍手で歓迎してくれました。
 老人会リーダーの女性が大きな目をぐるりと見渡し演説のように身振り手振りで活動の紹介をしてくださいました。クラブの運営は地区委員会がしており、週に5日ここに集まり体操・ヨガ・創作活動・遠足などをしているとのことでした。私たちのような交流希望者を何度も受け入れておられるようで訪問者の記帳ノートの寄せ書きもあり、お土産も手づくりの作品や絵葉書をいただきました。訪問時にお土産として持っていったタオルやペンなどはクラブの催しの時にプレゼント用に使いたいと大変喜んで受け取っていただきました。
 「キューバは子どもと高齢者を大切にする国です。」と自国を紹介し、毎年このクラブで1番輝いていた高齢者をみんなで決め、年に1度のお祭りの日にその方が町のパレードの先頭を行進する慣わしであることを誇らしげに説明されました。日本とキューバの友好関係が80周年を迎えるのとWBCの日本優勝を讃えてくれました。その後アカペラで歌自慢の方5人による「愛の歌」のお披露目があって、とっても情感がこもっていてうまかったのには聞きほれてしまいました。フロアーからも手拍子や歌に合わせて唱和する人も多く大変な盛り上がりようでした。
 特に80代後半に見える女性が赤いスパッツに白いブラウスを胸の下でキュとくくってお腹を出し、バケツをさげて手を振りながら昔の物売りの声をまねてのパフォーマンスを見せてくださり、やんやの喝采を受けました。また、昔トヨタ自動車の部品の買い付けと貿易で日本に何度も出かけた経験がある人も話され、「日本人は正直で親切、嘘をつかない。」と日本人の国民性を好ましく話してくれました。
 全体に大変友好的で気取りがなく、もじもじしている私たちをリードし、「こんなに私たちは元気で楽しく暮らしているよ」と誇らしげで、今の幸せな気持ちを私たちと共有したいというエネルギーにあふれ圧倒されっぱなしの交流会でした。

 紹介本で見るとキューバの人口1226万人、百歳以上の長寿者が2800人以上いてほとんどが健康に暮らしており、長寿者の割合は途上国ではズバ抜けて高い数字です。平均寿命は78歳。キューバの人たちの楽天的な人生観とともに、医療と公衆衛生のきめ細かな施策が人々の生活に行き渡っていることの成果と思えました。
 厚生省の広報部長ポルティージャ先生のお話によると、老人専用の病院が38施設。老人ホームが143施設で6000人が暮らす。老人ホームの施設数で単純に割り算すると1施設平均で40人規模。日本では民間の経営のため100人規模でないと効率が悪く採算が取れないということで大規模施設介護が主流となっていますが、最近では高齢者にとって大規模施設の居住性がよくないことと設備に金がかかるとして、空き家を利用しての9人以下のグループホームや、20人規模の地域密着型施設が普及してきました。しかし介護報酬が低いためにどこも大赤字で必要な職員も集まらず、待機者は増える一方となっています。
 高齢者の生涯学習としての高齢者大学も普及しているといいます。ちなみに日本では高齢者大学が都道府県で実施されていますが、入学希望者の競争率は20倍と需要に追いついていない実情があります。
 キューバでも人口の高齢化と一人暮らし高齢者の増加で老人ホームが足りない実情があるとの説明を受けました。
 キューバでは高齢者介護は、家族内での介護が中心となっています。高齢者も家族もそれを望み、ファミリードクターの訪問で予防と療養指導、リハビリテーションが行われ、看護師による訪問看護で支援しています。
 高齢者の終末はホームドクターによる在宅での看取りがほとんどで、若い頃からの生活習慣や健康状況、家族関係など知り尽くしたホームドクターらが家族と共に支えるのは自然なことと受け入れられているようです。
 さらに日本では病院で終末期を迎える高齢者が多いのは、介護力が脆弱でかつ夜間や急変時にもすぐに訪問診療をできる医師がほとんどいない実情があります。本人も家族もやむなく入院を選ばざるを得なくなっている実情を考えると高齢者にとってホームドクター制度はまことにありがたい制度だと思いました。重度の要介護の状態になった時の対応を聞いたところ、労働者は年間24日間の休暇があって、家族間で交替に休みを取って世話をし、それでも足りない時は勤め先に話して無給の休暇を取る。困っている時はお互い様で許可されないことはなく、仕事を休むことで上司から不当な扱いをされることはないと聞きました。介護のことなどで本人の不利益になるようなことがあれば、労働組合が問題視して解決が図られ、その結果によっては上司が仕事を継続できなくなることがあるとのことでした。
 通訳のスサーナさんのお姑さんが要介護になったときは2日に1回のファミリードクターの訪問と毎日の看護師による訪問看護を受けていたそうです。足りないところは個人的にお手伝いさんを雇う方法で対応して在宅で看取られたそうです。

年休の続きで出産に伴う休暇の説明がありました。
 日本では公務員と1部の企業を除き産休は無給ですが、キューバでは産前12週間は100%の給料の保障があり、産後は1年間の休暇があり給料の60%が支給されています。最初の産後6ヶ月は母親のみ休暇が与えられ、あとの6ヶ月は両親のいずれかが育児休暇を取れるそうです。

 高齢者を尊重する家族や社会があってこそ、安心や助け合いの自然な関係づくりにつながっていることを感じ取ることができました。キューバの高齢者の人たちの生活は、率直に感情を表現する国民性もあって、はじけるような生きる喜びがあふれていて、うれしい気持ちは多くの人と分かち合おうという キューバのパワーを沢山いただいた旅行となりました。