米・欧・日によるアフガニスタン侵略と戦争犯罪を糾弾する(その1)
数字で見る米国の侵略、殺戮、破壊の20年
米・NATO軍の数えきれない戦争犯罪

 20年に渡る米帝国主義の侵略戦争での正確な被害実態を明らかにしようと、現在、意欲的な報告書が、2種類配信されています。ひとつは、ブラウン大学ワトソン研究所による『戦争のコスト』(『COST OF WAR』)であり、もうひとつは、米戦略研究所(IPS Institute for Policy Studies)の手による『危険な状況:9・11以降の軍国主義化のコスト』(『State of Insecurity: The Cost of Militarization Since 9/11』)です。前者の報告書の数字は、日本のメディアを含め、左翼系サイトの記事や中国のグローバル・タイムズ、中東のアルジャジーラ等の公共メディアでも盛んに引用されています。
 この2つの報告に共通しているのは、まずは侵略を受けた国の人民にこれでもかと戦争被害を次々に押し付ける米帝国主義の実像です。それだけではありません。特に強調しているのが、米帝国主義が如何に「戦争国家」「軍事国家」に成り下がり、腐敗の極みとなっているのかの告発です。絶えず新たな敵を人為的に作り出し、世界中に軍事基地を張り巡らし、世界中で侵略戦争を引き起こしています。そして途上国人民を殺戮し、その産業と国土を破壊しつくし、難民・避難民を生み出し、餓死と飢餓と貧困のどん底に突き落としています。そのために米国人民の莫大な血税を軍事費として費消し、しかし、結局はその出費のほとんどは人民のためではなく、巨大軍需産業、軍事請負企業そして金融機関に還流するという侵略マシーンと化した米国の政治・軍事・経済構造です。今その侵略国家は次の敵として中国に狙いをつけ牙を向いています。
 以下の報告では、上記の2つの報告に加え、国連や世界銀行の報告などにも載った、アフガニスタン侵略戦争20年の人的・財政的戦争被害のひどさと巨大さを、数字に焦点を当てて暴き出していきたいと思います。そして同時に米が侵略戦争の理由として常に上げる「テロの予防」「女性の社会進出」「人道的介入」が如何に欺瞞に満ちたものであったのかを明らかにしていきます。
『COST OF WAR』のサイト
IPSによる報告書「State of Insecurity: The Cost of Militarization Since 9/11」の全文
IPSによる報告書「State of Insecurity: The Cost of Militarization Since 9/11」の要約

米は侵略戦争で数百万人を殺害
・米は直接的な戦闘行為で計92万9千人以上を殺害しました。
・その内38万7千人以上が民間人です。
・アフガニスタンに限れば24万3千人が殺害されました。
・国連のアフガニスタンに関する報告では、2010年以降の10年間でアフガニスタンの子どもは8千人が死亡し、1万8千人以上が負傷させられました。女性に関しては、3千人以上が死亡し、負傷者は7千人を超えています。
しかしこれらの数字は、ワトソン研究所自身が注釈しているように、直接的な戦闘行為で死亡した人のみをカウントしています。負傷後死亡した人や難民後食料や安全な飲み水の不足で死亡した人、衛生環境の悪化と医薬品不足で死亡した子ども、乳幼児、老人、女性、戦争により自殺を余儀なくされた人などはカウントされていません。それらを考慮するとワトソン研究所は数倍に死者数が膨れ上がるだろうとコメントしています。別の報告書では2015年までに数百万人に死者は達したとされています。
西側メディアは、この20年間で、米・NATO軍によってこれだけ多くの人が殺されたことを、報道しようとしていません。歴史から抹殺しようとしているのです。メディアが報道したのは、タリバンの「女性の人権侵害」のオンパレードで、それにより意図的に米・NATOの巨大な戦争犯罪を覆い隠そうとしているのです。

死亡者数の一覧表

国連報告の子どもと女性死亡者数のグラフ(アルジャジーラ)

戦争難民・避難民が6000万人
・20年間で戦争難民・避難民が少なくとも3800万人発生しています。
・上記数字は非常に過小評価で実際は4900〜6000万人発生と推定されています。
・アフガニスタンでは590万人の国外・国内避難民が発生しています。
米・NATO軍によるアフガニスタン、イラク、シリア、リビア等への侵略・占領で、これだけ大量の難民・避難民が発生しており、今なお飢餓・餓死・病気・貧困にあえいでいます。そしてメディアではこの事実を告発、非難することがないのです。報道されるときは、米と対立する国を「失敗国家」とレッテルを張り、難民発生の原因をなすりつけるばかりです。

戦争避難民の地図

退役軍人の悲惨な実情−異常な自殺率の高さ
・米軍において現役兵士での戦争最中の死亡が約7千人であるのに対し、退役後自殺で死亡した軍人は3万人以上に達しています。自殺による死亡者が直接戦闘行為での死者数の4倍以上に達しているのです。
・この20年間で肉体的・精神的な負傷・不調を受けた退役軍人が急増しています。20年前までは、そのような「傷害」を持つ退役軍人の割合は25%未満であったのが、現在は40%以上に達し、更に今後30年間で54%まで上昇すると予想されています。
・退役軍人への予算も増加の一途をたどっています。退役軍人数は700万人も減少しながら、予算規模は2001年度で連邦予算の2.4%しか占めていなかったのが、2020年には4.9%まで占めるまでになっており、率として倍増しているのです。
・退役軍人への治療費も急増しています。2050年までで生活費も含めそのケアに必要な予算は2.5兆ドル(約280兆円)に達すると推定されています。
米の対外侵略の激化は、同時に自国兵士に対し極度の肉体的・精神的重荷を背負わせています。まさに米は「病んだ」侵略国家なのです。

自殺率の異常な高さ

世界85カ国で軍事行動を展開−常時22万人が海外に常駐
・米軍は世界85カ国で「対テロ」訓練等と称して侵略戦争を展開しています。
・それも2018〜2020年のわずか3年間だけなのです。
・その名目の内訳は、「対テロ」訓練が79カ国、米軍の演習が41カ国、米軍による戦闘が12カ国、空軍及びドローンによる爆撃が7カ国となっています。
・米軍は世界80カ国に750以上の基地を保有しています。
・そして米軍兵士22万人が常時海外に駐留しているのです。
この信じられないほど巨大な数字ひとつひとつが、米帝国主義がいかに侵略国家であるかを雄弁に物語っています。同時に米と中国を同列に扱うことがいかにまやかしであるかも表しているのです。

世界での米軍対テロ作戦の地図

20年での軍事化コストは21兆ドル(約2300兆円)
 IPSの報告書は、米帝国主義の20年間の侵略戦争の軍事化コストを直接の戦費だけに限定してはならないと言っています。軍事化にかかったコスト全体を見積もるべきとしています。そのため軍事化コストは、20年間の国防総省予算合計の14兆ドル始め、退役軍人省予算3兆ドル、エネルギー省の核兵器予算4600億ドル、国家安全保障省予算9490億ドル、連邦法執行機関の予算7320億ドル等を総計した21兆ドルとなり。すなわち米のGDPに匹敵する天文学的数字になるとしているのです。
・米の軍事費はアフガニスタンへの侵略戦争が始まると急膨張し、ピークの2010年度には約1兆ドルにまで膨れ上がりました。その後少し減少しましたがそれでも毎年8千億ドル前後(約90兆円)をキープしています。

軍事化コスト21兆ドルの概要
軍事費膨張の推移(p8のグラフ)

侵略戦争の戦費として8兆ドル
・ワトソン研究所によれば、この20年の戦費の内訳は、アフガニスタンへの戦費が2.3兆ドル、イラク等への戦費が2.5兆ドル、米国内での「対テロ」費用が1.1兆ドル、今後見込まれる退役軍人にかかるケアの費用が2.5兆ドル。総計して8兆ドルに上ると推計されています。
https://watson.brown.edu/costsofwar/figures/2021/BudgetaryCosts

アフガニスタンに限れば2.3兆ドル
・ワトソン研究所によれば、アフガニスタン戦費2,3兆ドルの内訳は、国防総省による海外危機管理予算が約1兆ドル、戦費の利払いが5300億ドル、国防総省の追加費用が4430億ドル、退役軍人へのケアの費用が2960億ドルとなっています。これらのうち、直接の戦費1.5兆ドルのほとんどが巨大軍需企業及び民間軍事請負企業に、利払いの5300億ドルは金融会社に還流しているのです。

ブラウン研究所の報告

ビジュアルとしてわかりやすいアルジャジーラの報告

対外侵略と同時に米国内の弾圧機構も肥大化
・IPS報告が軍事化コストとして21兆ドルと主張する最大の理由は、この20年間は、「対テロ」を名目としたアフガニスタン・イラク・シリア等の外への侵略だけでは済まないということです。
・それは翻って、米国内の人民運動への弾圧の強化、大量投獄、逮捕・拘禁の頻繁化、外国人(難民)排斥と人種差別の増大、人民への日常的な監視・盗聴の強化と密接に結びついています。
・そのため、「対テロ」名目で新設された国土安全保障省の全予算と連邦法執行機関の全予算をどうしても加えなければなりません。
・これに加えて、警察の重武装化が進展しています。
国内弾圧機構肥大の実態をまざまざと見せつけたのが、昨年高揚したブラック・ライブズ・マター(BLM)運動への弾圧です。デモの取り締まりに駆け付けたのは、通常のパトカーではなく弾丸を通さない重武装の装甲車両です。もっともBLM運動が高揚した西部ポートランド市では、国土安全保障省とFBIから選抜された重武装の弾圧専門部隊が運動の「参加者狩り」を繰り返しました。
国内軍事化強化の最も端的な例が、囚人数の急膨張です。その囚人による奴隷労働の実態に関しては、書評『アメリカン・プリズン』を参照してください。

囚人数増加のグラフ(P22のグラフ)

書評『アメリカン・プリズン』

財政の軍事化が雇用、医療、社会保障、環境保護、教育予算を圧迫
・IPS報告のもう一つの特徴は、国家財政での軍事化の膨張が雇用、医療、社会保障、教育等の人民関連予算や環境・インフラ等への予算投入を極度に圧迫したと厳しく批判しています。20年間での21兆ドルという膨大な軍事費は、一方では、健全な経済活動を阻害し、米国内の貧困を助長し、多くの失業者を生み出しました。そしてIPS報告は、今回のアフガニスタンからの撤退が、「正常な」経済活動に戻るチャンスだとも主張しています。以下がその主要な論点です。
・4.5兆ドルは米国の電力網を完全に脱炭素化する可能性があります。
・2.3兆ドルは1時間あたり15ドルで500万人の雇用を創出し、10年間の福利厚生と生活費調整をまかなえます。
・1.7兆ドルは学生の借金を消す可能性があります。
・4490億ドルは、さらに10年間延長された児童税額控除を継続する可能性があります。
・2000億ドルは、3歳と4歳児の10年間無料の幼稚園を保証し、教師の給料を引き上げることができます
・250億ドルは、低所得国の全人口にCOVIDワクチンを提供する可能性があります。
・ワトソン研究所も軍事よりもクリーンエネルギーとヘルスケア、教育に投資すればより大きな雇用を生み出すとしています。もし戦争をしなければこれらの産業分野で300万人の雇用が生まれ失業率が改善すると推計しています。

IPSの提言

ブラウン報告での雇用の改善

侵略戦争で32万6千発の爆弾・ミサイルが降り注ぐ
・以下に報告するものは、米反戦平和運動団体コードピンクのメデア・ベンジャミンとニコラス・デイヴィスが、毎月発表される米空軍の爆撃記録より明らかにしたものです。姑息にもトランプ政権は20年春よりこの空軍の発表を止めています。
・この20年で、米は空軍からの爆撃だけで、32万6千発のミサイルと爆弾を中東を中心に途上国に雨あられのように振り注ぎました。1日当たりに直すと46発にも上ります。アフガニスタンに限れば8万1千発です。
・ところがこの数字はあくまで空軍のミサイルと爆弾だけに限定されています。ヘリコプターからの爆撃や機銃掃射、戦車・装甲車という陸上兵器からの砲撃等は含まれていません。それを考えればアフガニスタンにそして全世界に米が降り注いだ爆弾の嵐は、想像を絶するものとなります。
・この爆弾の嵐は、今後のアフガニスタンの復興に直接深刻な影響を与え続けます。大量の不発弾が残存しているのです。畑を耕すときも、家を建てるときも、工場を建設するときも、そして道を歩く時でさえまずは不発弾処理が必要となります。
※数の多さだけではありません。米は劣化ウラン弾、クラスター爆弾、燃料気化爆弾、通常兵器では最大の破壊力を持つMOAB(「全ての爆弾の母」と言われる)爆弾等あらゆる爆弾を投下しました。これら兵器の殺傷力、破壊力を試す格好の実験場としてです。まさにアフガニスタンやイラクの民衆と国土は、米の新型兵器の人体実験場と化したのです。

メデア・ベンジャミンによる空軍発表数字からの統計

結局20年でアフガニスタンはより貧困が深刻に
・国連報告によればアフガニスタンにおける貧困率は、2007年の33.7%から2016年には54.5%にまで急激に悪化しています。
・人口の90%は1日当たり2ドル未満という貧困ライン以下の生活に苦しんでいます。
・370万人の子ども達が就学をあきらめ、働かざるを得ない状態に陥っており、その内60%が女子なのです。

貧困報告(アルジャジーラ)

国土の荒廃と貧困により女性の権利も制限される一方
・世界銀行の統計によれば、現在アフガニスタン女性の約3分の2は文字が読めません。この比率は悪化する一方です。その大きな原因は、貧困が進んだことで、14歳以下の段階で200万人以上の女の子が就学をあきらめ、働きに出たり、子どもの世話等の家事・育児に従事しなければならないからです。
ここまで見てきたように、米はアフガニスタン始め多くの途上諸国への侵略戦争で、人民を殺戮しつくし、国土と産業を極限まで破壊し、生き残った人民に戦争難民となることを押し付け、飢餓と貧困を強要しました。これからして、アフガニスタン人民が米に感謝などするはずがありません。今回タリバンがあっという間に全土を掌握した根本にあるのは、米国に対する人民の不信と怒りの爆発に他なりません。合わせて米の傀儡政権であったガニ政権への極度の不信です。

 そして現在、タリバンの「女性の権利の迫害」を大々的に報道することとあいまって、米バイデン政権は、アフガニスタンへの経済制裁を発動し、米銀やIMFが保有するアフガニスタン政府のドル資産を差し押さえています。このような兵糧攻めを課すことで、米の戦争犯罪と干ばつで苦しんでいるアフガニスタンに飢餓と餓死を更に深刻にしようと躍起になっています。この20年の戦争犯罪に飽き足らず、更なる戦争犯罪を倍加させようとしているのです。

2021年10月26日
リブ・イン・ピース☆9+25