オバマの新たな戦争──マクリスタル司令官就任が示すもの
[抄訳]オバマの動物農場:もっと大きなもっと残虐な戦争は平和と正義に等しい

 リブ・イン・ピース☆9+25の6月4日の論説“オバマは「対テロ戦争」をやめ、米軍を即時無条件に撤退させよ!──動揺し始めたイラク撤退・アフガン増派戦略”では、オバマが打ち出した「新軍事戦略」なるものの行き詰まりと「対テロ戦争」の継続・泥沼化を論じた。その際、オバマがアフガニスタンの新たな司令官に任命したマクリスタルという人物が、拷問・虐待に直接絡む特殊部隊司令官という経歴を持つことを指摘し、その註で「オバマの動物農場」(ジェームズ・ペトラス著 グローバル・リサーチ)を紹介した。今回はその抄訳である。
オバマは「対テロ戦争」をやめ、米軍を即時無条件に撤退させよ!――動揺し始めたイラク撤退・アフガン増派戦略(リブ・イン・ピース☆9+25)

 ジョージ・オーウェルの「動物農場」に例え、チェンジを掲げて誕生したはずのオバマ政権が前政権以上に残虐な戦争政策を遂行する危険性を、マクリスタル司令官の誕生という事実の中に見ている。軍産複合体の利害ととりわけアフガン情勢の泥沼化が、オバマが容易に戦争マシーンから抜け出ることを不可能にしているのであるが、著者によれば、それはブッシュの戦争の継承というよりは、オバマによる「重大な新しい軍事的エスカレーション」なのである。彼はこれを軍事主導帝国建設という言葉で表現する。「対テロ戦争」の泥沼からぬけだすためには、この軍事主導帝国建設という米国の基本構造との闘いなしには不可能であることを示している。

2009年6月11日
リブ・イン・ピース☆9+25



[抄訳]オバマの動物農場:もっと大きなもっと残虐な戦争は平和と正義に等しい

ジェームズ・ペトラス

原文:Obama’s Animal Farm: Bigger, Bloodier Wars Equal Peace and Justice (James Petras)

・・・・略・・・

 オバマ大統領は、最も悪名高いスタンレー・マクリスタル将軍を、アフガニスタンでの米・NATOの軍事指揮官に昇進させた。マクリスタルの指導的地位への昇進は、超法規的暗殺・組織的拷問・地域住民への爆撃・捜索破壊任務に従事する特殊作戦チームの指揮における中心的役割によって特徴づけられる。彼こそは、軍事主導帝国建設に伴う野獣性と流血の正しい体現者である。彼は2003年9月から2008年8月の間、海外での暗殺の特殊チームを動かすペンタゴン統合特殊作戦(JSO)の指揮を執った。
 特殊作戦チーム(SOT)のポイントは、一般人の反対者と軍事的反対者とを区別しないこと、活動家やそのシンパサイザーと武装抵抗勢力との区別をしないことである。SOTは、対米従属体制に反対する地域社会や近隣や社会運動を恐れさせるために、暗殺部隊の確立や凖軍事力の募集と訓練を専門としている。SOTの「反テロリズム」は逆のテロリズムであり、米の代理機関と武装抵抗勢力との間にある社会政治集団に焦点を当てている。マクリスタルのSOTは、奇襲部隊の襲撃や空爆を通して、イラク、アフガニスタン、パキスタンの地域的及び全国的な反乱のリーダーたちを標的にしている。ブッシュ―チェイニー―ラムズフェルドの時代のこの5年間、SOTは政治囚や容疑者の拷問に深く関与してきた。マクリスタルは、「特殊任務部隊」の「直接行動」部隊の責任者であったがゆえに、ラムズフェルドとチェイニーの特別の大のお気に入りであった。「直接行動」の隊員は、暗殺部隊メンバーであり、拷問にかける者であり、かれらの地域住民への唯一の取り組みは、人に恐怖を起こさせることであって宣伝活動をすることではない。かれらは「死者の宣伝」に関わり、地元リーダーを暗殺して地元民に服従を「教え」、そうして占領に服従させようとする。マクリスタルを指揮官にすえるオバマの任命は、アフガニスタン全土にわたる抵抗の前進に直面した、オバマのアフガニスタン戦争における重大な新しい軍事的エスカレーションを反映している。

・・・中略・・・

 ホワイトハウスとペンタゴンは、マクリスタルの任命は現地の状況の「複雑性」と「戦略の変更」の必要性による、と主張している。「複雑性」は、大衆の反米の増大の婉曲表現であり、伝統的なじゅうたん「爆撃と軍事掃討」作戦を難しくしている。マクリスタルが実行する新戦略は、武装抵抗勢力に援助システムを提供している地域の社会的ネットワークとリーダーたちを破壊し殺す大規模な長期間の「特殊作戦」を含んでいる。
 軍と「尋問者」(特に「特殊部隊」の指揮下での)による囚人の拷問を記録した数十枚の写真の公表を妨げるオバマの決定は、イラクでの広範な拷問に深く関わったSOTを指揮するマクリスタルの任命と直接関係している。同様に重要なことは、マクリスタルの指揮下で、DELTA、SEAL、特殊作戦チームが、新しい「反乱鎮圧戦略」においてもっと大きな役割を果たすであろうということである。これらの写真の公表は「軍隊」に逆の影響を及ぼすだろうというオバマの主張は、特別な意味を持っている。すなわち、ブッシュ大統領下のこの5年間のマクリスタルの活動スタイルの生々しい暴露は、オバマの下での同じ作戦の実行における彼の効力を弱めるであろうということを。
 グァンタナモ囚人キャンプに収容されている外国の政治囚の秘密の「軍事裁判」を再開するオバマの決定は、オバマが大統領選中に非難し撤廃を誓ったブッシュ―チェイニー政策の単なる繰り返しではなく、軍国主義化のもっと大きな政策の一部分であり、米市民に対して行われる大規模な秘密警察監視活動の是認と符合している。
 拡大されたアフガニスタン―パキスタン軍事作戦の責任者にマクリスタルをすえることは、軍事テロリズム―米の政策の反対者の拷問と暗殺―の悪名高い実行者を、米の対外政策の中心にすえることを意味する。南アジアにおける米の戦争のオバマによる量的質的拡大は、農場、家、村の破壊から逃れてくる大量の難民、すなわち数万の市民の死、地域共同体全体の根絶を意味する。この全てが、魚(武装反逆者と活動家)を獲るために湖を空にする(全住民を追い払う)ことを求めるオバマ政権によって行われるであろう。
 オバマによる、ブッシュ時代の最も悪名高い政策全ての回復とブッシュ政権の最も野蛮な司令官の任命は、彼の軍事主導帝国建設のイデオロギーの総体としての容認・抱擁に基づいている。一度(オバマがそうであるように)米の権力と拡大が軍事的征服と反乱鎮圧に基づくと信じると、他の全てのイデオロギー的、外交的、道徳的、経済的検討は軍国主義に従属するものとなるであろう。全ての資源を軍事的征服の成功に集中することによって、征服の標的にされた国民の犠牲や、米の国庫と国内経済には、わずかな注意しか払われない。これは始めからずっと明らかである。すなわち、何百万もの米国人の職と家の消失を伴う大きな景気後退、恐慌の最中に、オバマは軍事予算を4%増大させて8000億ドルを突破させた。
 オバマの軍国主義の容認・抱擁は、NATOの更なる戦闘部隊の投入の拒否にも拘らず、アフガン戦争拡大の決定をしたことから明白である。それは、ブッシュ―チェイニー時代からの最強硬路線の悪名高い特殊部隊長官を、アフガニスタンとパキスタン前線地域制圧の軍事指揮官に任命したことで明白である。
 それは正しくジョージ・オーウェルが「動物農場」の中で述べたようなものである。すなわち、今や民主党の豚は、前任者の共和党の豚と同じ野蛮な軍事政策を追求している、だが今では人民と平和の名において。オーウェルならオバマ大統領の政策を次のように別の言葉でやさしく言い換えるであろう、「もっと大きなもっと残虐な戦争は平和と正義に等しい」と。

(訳責W)