イラク戦争開戦6周年 「対テロ戦争」を批判するシリーズ(その1)
グァンタナモ収容所閉鎖の欺瞞
オバマは拘束者を即時無条件に釈放し、グァンタナモ基地を閉鎖、キューバへ返還すべき

(1)オバマ大統領は1月22日、アブグレイブ刑務所と並んで「対テロ戦争」の象徴となっている、「テロ容疑者」不当拘束施設グァンタナモ収容施設の閉鎖に署名した。この報道だけを聞けば誰もが、不当拘束と拷問・虐待の収容施設を閉鎖し「容疑者」を即時釈放すると思うだろう。だが、内容は全く違う。収容所の閉鎖は「1年以内」で、しかもその間に「代替地」を探すという。収容者は、(1)第3国に引き渡しが可能、(2)米本土の裁判所や軍法会議などでの訴追が妥当、(3)いずれも困難−の3つに分類し、それぞれに対処する。要するに、グァンタナモはあまりにも悪名高いために閉鎖するが、他の収容所に移送すると言っているに過ぎない。「容疑者」は「容疑者」のままで、反米行動を行う危険性がないと認められない限り釈放されない。これ自身が重大な人権侵害だ。全く何もかわらないのだ。無実の市民を不当拘束し、拷問と虐待の限りを尽くした「テロリスト」収容所そのものは継続されるのである。同時にオバマ大統領は、CIAが海外に設置した秘密収容所の閉鎖も命じているがこれも怪しい。秘密収容所とは、東欧や中東諸国に治外法権的に設置され、現地イスラム系住民らの不当拘束、収容、移送などに使われていたものだ。これまで米政権はこの秘密収容所の存在を認めていなかったにもかかわらず、今回、存在しないはずの収容所の閉鎖を命じたのである。なんという茶番だろう。オバマ政権は、秘密収容所の全リストとその実態を明らかにすべきである。
テロ容疑者の移送先決定急ぐ=グアンタナモ収容所閉鎖で米政府(時事通信)
Secret List of U.S. Military Bases to Replace Gitmo(ABC)

(2)オバマ大統領は「対テロ戦争」全体からグァンタナモだけを切り離す。グァンタナモは「非敵性戦闘員」をジュネーブ条約の適用されないテロリストと見なして好き勝手にするという「対テロ戦争」の本質を表している。その象徴の閉鎖を決めたに過ぎない。オバマ大統領は2月17日、アフガニスタンへの米兵17000人の増派を打ち出した。就任前よりアフガニスタンを「対テロ戦争」の主戦場と位置付け、軍事行動の重点をアフガンへシフトすることを表明していた。早くもメディアからは「アフガンの泥沼化」「アフガンのベトナム化」などの報道が噴出している。米空軍系のシンクタンク・ランド研究所は平和研究所と共に、「戦略のない増派はほとんど意味をなさない」と批判する報告書を出した。
RAND report urges new Afghan strategy(boston.com)
米国:アフガン増派「ベトナム化」懸念(毎日新聞)
Afghanistan: Think South Vietnam in 1965(Commondreams)
Afghan Quagmire(New York Times)

 オバマはイギリス外相が1月に「対テロ戦争は誤り」と発言した事などを受け、「対テロ戦争」(War on Terror)との言葉の使用を避け、「テロリズムとの闘争」(struggle against terrorism)を多用し始めているという。イラク戦争を直接指すようになった固有名詞としての「対テロ戦争」−−イラク戦争、大量破壊兵器、アブグレイブを連想する−−は使わないが、アフガン戦争、米国内の監視体制、9.11、アルカイダ、イスラム系、イスラム原理主義、テロリストを指す広義の「テロとの闘い」は使い続ける??。オバマの「チェンジ」とはこの程度のものだ。イラクからの15ヶ月以内の撤退方針も、即時無条件撤退を求める米国内の帰還兵や戦死者遺族の思いからはほど遠い。しかも戦闘部隊の撤退のみで、数万の治安訓練要員や十数万の傭兵=民間軍事会社の兵員の撤退は含まれていない。
Under Obama, 'war on terror' phrase fading(AP) 

(3)大スキャンダルを巻き起こしたアブグレイブは閉鎖されたが、またグァンタナモの閉鎖には言及されたが、「対テロ戦争」の最重要の一部としての拷問・虐待システムは継続している。オバマは、グァンタナモ収容所の閉鎖を言うのであれば、収容者の無条件の釈放、グァンタナモ基地そのものの閉鎖とキューバへの返還、代替地を含め不当拘束施設の廃止と不当拘束そのものの禁止、国外秘密収容所のリスト開示と閉鎖、秘密外国情報監視法や米国愛国者法など一切の対テロ法の廃止、アブグレイブ事件の全貌の解明とラムズフェルドやチェイニー、ブッシュら責任者の処罰などへと進むべきだろう。「対テロ戦争」を放棄すべきだろう。グァンタナモには今も250人の囚人が捉えられている。アフガニスタンの人々にとっては、600人を収容しながら弁護士やジャーナリストにもほとんど注目されていないバグラム空軍基地での収容施設の方が劣悪だという声が上がっている。しかもオバマによるアフガン増派によって、この収容施設の比重は一層強まろうとしているのである。
Treat U.S.-Held Prisoners Like Gitmo Detainees, Afghans Urge(Afterdowningstreet.org)
FACTBOX-Some details on Guantanamo prison(Antiwar.com)

 グァンタナモ収容所は拷問システムの原点である。シリーズ(その1)ではグァンタナモ閉鎖の欺瞞を取り上げた。(その2)では、アブグレイブ刑務所と米政権の責任問題について、NHK番組「微笑と虐待−証言アブグレイブ刑務所事件」を取り上げたい。

2009年2月23日
リブ・イン・ピース☆9+25


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