日本政府の軍事介入反対を鮮明にし、アフガン支援継続を強調
――ペシャワール会事務局長・福元満治氏講演会に参加して


 ペシャワール会のアフガン現地でワーカーをしていた伊藤和也さんが拉致・殺害された事件(8月26、27日)直後の9月14日、ペシャワール会事務局長・福元満治氏の講演会が、大阪ペシャワール会の主催で行われた。参加者は200人を超えた。講演は事件以前から予定され、非常事態に一時は中止も検討されたというが、今こそペシャワール会の思いを伝えなければならないという主催者の強い意向で敢行されたという。
麻生首相は就任するなりいきなり国連総会で新テロ特措法の成立への意図を述べ、直後の記者会見で集団的自衛権の行使についての憲法解釈変更に言及するなど、対米軍事協力、侵略戦争加担の姿勢を鮮明にしている。もちろんその危険性と、それを遂行するための条件を麻生政権が持ち合わせているかどうかは別問題である。あらためてペシャワーール会の講演を紹介し、伊藤さんの命を奪ったとも言える自衛隊派兵の不当性と真の援助とは何かを考えたい。

 講演会冒頭、福元事務局長は、「新聞や評論家の発言は現実とかけ離れている」とペシャワール会を誹謗中傷するマスコミを批判した。医療活動や井戸・用水路の建設などの支援活動を続けるペシャワール会は、アフガンの真の姿を紹介し続けるという点でも重要な役割を果たしてきた。ペシャワール会は、日本政府のアメリカ追随政策への反対を隠すことなく、アフガンでの本当のテロ組織はアメリカなどのNATO軍であること、アメリカの空爆はアフガンの女性や子ども、老人を殺し続けていること、復讐に燃えたアフガンの遺族がアメリカに抵抗していること、などを暴露してきた。それは、タリバンがテロ組織であるとデマを流し市民を欺きアフガンへの武力介入を指向する勢力に真っ向から対立してきた。
 ペシャワール会のこれまでの地道な活動をよく知る支援者たちはデマ宣伝に惑わされず、ペシャワール会を脱退する動きはないと報告された。福元氏は、今後も政府の軍事介入に反対する姿勢を堅持し、規模は縮小しつつもアフガンに対する支援を止めることはないと強調した。
 福元氏は伊藤さん殺害の意味を参加者に問いかけた。人々はリスクがあったことを非難している。しかし、「リスクがあるけれどもアフガンを支援してきた」「リスクがあるなら支援を止めるべきなのか」「今回の事件を人ごとと思わず、自分ならどうするというように考えて欲しい」と。
 また、伊藤さんの死を政治利用しようとする右派勢力を批判した。「北海道大学の先生は、ペシャワール会は軍事訓練して行くべきと言っている」。また、週刊新潮は、「善意の押しつけ」とペシャワール会を誹謗中傷している。
 福元氏は、右派の主張する軍事=暴力優先よりも平和の大切さを強調した。アフガンの民衆にとって戦乱と旱魃は生活を破壊するものである。農村で暮らせなくなった人々は難民キャンプに行った。難民キャンプでは、かつて農村で存在した秩序が崩壊し、カネとニヒリズムが支配している。ニヒリズムは原理主義に行き着く。今回、伊藤氏を殺害したのは難民キャンプで成長した青年だったといわれている。伊藤さんは「暴力で殺された」のだ。
 福元氏は、アレクサンダー大王の征服と仏教発祥地であることの関係を紹介し、女性の衣服ブブカの意味など、アフガンの文化を尊重することの大切さを強調した。ブブカは宗教上の意味もあるが、遊牧民が女性を略奪することの防衛的意味もある。また、気温40℃を越えるところだから丁度日本の農婦が夏場に農作業をするとき身体を覆い隠すのと同じだ。ブブカを批判するならば、日本の着物は女性の身体を拘束するが、その批判も受け入れよ。文化とは不合理なものを持つが無条件で受け入れるべきだ、と。
 ペシャワール会は、今なお偏見に苦しむアフガン僻地のハンセン病患者の救済など金儲け医療から見放されてきた貧しい人々への医療活動を皮切りに、未曾有の旱魃に苦しむアフガンに井戸を掘り、用水路を建設し、アフガン農村に緑を甦らせるなど平和的事業を貫徹してきた。
 福元氏は、約2時間の講演の最後に、アフガンの長老がペシャワール会に贈った言葉を紹介し自らへの戒めとした。「世界には二種類の人間があるだけです。無欲に他人を思う人、そして己の利益のみを図ることで心がくもった人です。」(「医者 用水路を拓く」石風社 23頁)ペシャワール会は前者であるし、今後もそうであろうと自らを戒めていきたい、と。
 講演後の質疑応答で、福元氏は、「ジャパンプラットホーム」と呼ばれる約20の非政府組織NGOが国から金をもらっていること、それは「国策NGO」と呼ばれていること、国策であるからには日本が対米協力する政策とは無縁であり得ないこと、ペシャワール会は政府からはカネをもらっていないこと、伊東さんの遺体を搬送する費用もペシャワール会で負担したことを紹介し、政府から独立であることに胸を張った。

2008年10月1日
リブ・イン・ピース☆9+25 T

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