追い詰められる米・NATO軍
〜地図で見るアフガン・レジスタンスの攻勢


 米・NATO軍は、アフガニスタンでいよいよ追い詰められている――これが、この地図を見た誰もが感じることではないか。
 ここで紹介するのは、アフガニスタンの支配状況に関するICOSの最新レポートについてのAxis of Logicによる記事の翻訳である。ICOS(治安と発展に関する国際会議 International Council on Security and Development)は、米軍を支持する立場から、米軍とNATOに分析を提供し、戦略的および戦術的アドバイスを行なう機関である。
 記事によれば、この一年でアフガニスタンでの勢力配置が大きく動き、全土の内72%でタリバン・反乱勢力が「永続的な支配」を確立し、「実質的な活動地域」(21%)を加えれば、実に93%がタリバン・反乱勢力の支配下にあるという。これは驚異的な数字である。一年前の54%から急拡大した。アメリカとNATO軍がまともに動き回れるのは、わずか7%、北部の一部地域だけだというのである。米・NATO軍の軍事作戦が完全に破綻していることを示している。5000名程度の増派で事態を打開できる段階を遙かに超えている。ICOSは、ISAF(国際治安支援部隊)を最低でも倍の80000人規模に増強するよう提言するが、夢物語という他ない。
 アフガニスタンでの軍事作戦は、「首切り作戦(decapitation operations)」といい、今年に入って拡大し、来年さらに強化される見通しだという。それは、タリバンの首領が潜んでいるとの「情報」を得た民家や集会場を、無人機などによって爆撃し、民間人もろとも殺りくするという無差別で残虐きわまりない軍事作戦である。地上戦では米・同盟軍の犠牲が著しく、また自由に活動できる区域が限られているため、無差別空爆に頼らざるを得ないのである。
 アフガニスタンでの反占領・反米闘争は、パシュトゥン人の“ジハーディスト”が多いという東部に対して、パキスタンに隣接する西部はアメリカの暴虐無人に対して立ち上がった若者たちであるという。さらにアフガンからパキスタン領内への越境攻撃が、次々と反米抵抗闘争に立ち上がる戦士を生み出している。いずれにしても、土着の民衆を基盤にした抵抗闘争が、アメリカとNATO軍の支配を切り縮め、包囲網を形成していっているのである。
 「首切り作戦」は、ベトナム戦争末期、ベトコンの指導者を殺害することで共産党軍の指揮系統を破壊し抵抗闘争を弱体化させようとした米の戦術に似通っているという。だが、事態がそのように進まなかったのは周知のことである。記事ではまた、75年サイゴン陥落時に敗走する米軍関係者らの写真を掲載している。
これが、オバマ次期大統領が「対テロ戦争」の主戦場と位置づけているアフガニスタンで起こっていることである。「対テロ戦争」=イラク・アフガン戦争は戦費、戦死者、帰還兵PTSD問題などでベトナム戦争と比較されてきたが、その類似性はいよいよ最終局面に入ろうとしているのかもしれない。

原文
ICOS: Afghan Resistance Controls 72% of Afghanistan. 3 of 4 roads leading out of Kabul "compromised".(Axis of Logic)
参考
Methodology: Afghanistan maps(ICOS)
Afghanistan Taliban Presence Map(ICOS)
Decapitation campaign: tracking the liquidation of Afghan insurgent commanders(The long war journal)
Decapitation strikes continue in Afghanistan(PrairiePundit)
※なお、この翻訳は米著作権法セクション107、研究および教育目的の非営利活動に適用される“Fair Use”の原則に基づいて行っています。
 http://www.axisoflogic.com/artman/publish/FairUse.shtml

2008年12月16日
リブ・イン・ピース☆9+25


[翻訳]ICOS:アフガン・レジスタンスはアフガニスタンの72%を支配し、
カブールから出る4つの道路のうち3つを「危うく」している

Axis of Logic 2008.12.8 By Les Blough, Editor

 アフガニスタンにおけるアフガン・レジスタンス支配地域のここ12ヶ月の変化が、信頼度の高いシンク・タンクICOS(治安と発展に関する国際会議International Council on Security and Development )によって報告されている。その12ヶ月の変化を比べてみよう。ICOSは、アフガニスタンでの戦争を支持している組織であり、米軍とNATOに分析を提供し、戦略的および戦術的アドバイスを行なっている。当サイトAxis of Logicのリサーチは、ICOSのウェブサイトもその新しい地図も、グーグル検索では見つけることができないということを見出した。(グーグルでは最新の報告も地図も載っていない古いSenlis Councilのウェブサイトが見つかるだけである。)それに代わるものが使われていた。注意しなければならないことは、米国とNATOがICOSの数字の信頼性を激しく否定しているということ、またロイターがICOSの諸結論に関してレポートする際に、その米国やNATOによる否定で紙面を覆うことによって妨害報道を行なっているが、決して最新の状況を明らかにしている地図やICOSからの最新情報は示していないということである。
  
 ICOSは、次のように報告している。

 「タリバンは現在、アフガニスタンの72%で‘永続的プレゼンス(permanent presence)’を保持している。これは1年前の54%から増大したものである。タリバン勢力は、南部の中心地域では多くの町や村で事実上の統治権力を握っているが、そこから西部や北西部の諸州へ、またカブールの北の諸州へと前進してきた。この1年以内に、タリバンの‘永続的プレゼンス’の地域は、驚くべきことに18%も増えた。」

 ICOSは、さらにこう続けている。

 「アフガニスタンについての国際社会の見通しは決して暗いものではなかったが、タリバンは、2005年から勢いを得て復活再生してきている。
 「しかしながら、失われた7年が経過する中で、タリバンは、アフガン領土内のますます増大する地域に根を張ってきた。ICOSによって2008年を通して行われた調査によれば、タリバンは現在、国土の72%で‘永続的プレゼンス’を持っている。
 「カブールから出る4つの出口のうち、現在3つがタリバンの活動によって危うくされている。西部への道、ワルダクを経てカンダハルへ行くアフガン・ナショナル・リング・ロード方面は、通行者が約30分の距離のWardak州の入り口に到達するまでに安全が脅かされる。
 「このように、都市の出入り口をブロックすることによって、タリバンは、カブール包囲網を縮めつつあり、また近郊に拠点を設けてそこから攻撃をしかけている。このような拠点を用いることで、タリバンのカブール攻撃は劇的に増大した。−−アフガン人や外国人の誘拐、さまざまな爆弾攻撃、暗殺などを含めて。」

 最近12ヶ月でのアフガン・レジスタンスの前進を示している下の2つのICOSの地図を比較してみてほしい。(いずれも赤が“永続的プレゼンス”、ピンクが“実質的プレゼンス”、グレーが“プレゼンスが薄い”を表す。)

 ICOS2007年11月の地図。アフガン・レジスタンスが国土の54%を直接支配のもとに置いていること、38%が「タリバンの‘実質的プレゼンス(substantial presence)’の地域」であること、したがって合わせて92%が米国とNATOのコントロール外であること、を示している。1年前の、アフガニスタンに対する戦争の6年後に、米国とNATOが支配しているのはたった8%の地域だけとなっていた。米国は2001年10月7日に、彼らが「Operation Enduring Freedom」と呼んだ作戦でアフガニスタンを侵略した。英国紙「ガーディアン」のレポートによれば、侵略の最初の4ヶ月で数万人のアフガン人が殺され、その後さらに多くが殺された。米国とNATOは、政策として意図的に、彼らが殺し傷つけた人々の数を数えていない。

 1年後、今年2008年11月のICOSの地図。アフガン・レジスタンスが国土の72%を直接支配していること、21%が「‘実質的な(substantial)’タリバン・反乱勢力の活動地域」であることを示している。合わせて93%ということが強く示唆していることは、米国とNATOと占領下の傀儡政権が失敗してきたのに対して、レジスタンスは組織され重武装し統制がとれているということである。ここ12ヶ月で直接支配地域が18%増えた。 (photo: Neal Ulevich/AP)

ベトナムを想起して

1975年4月――32年前、北ベトナム軍がサイゴンになだれ込んだとき、逃げ出すためのヘリコプターに乗れる場所まで行こうと、ベトナム、サイゴンの米国大使館の壁をよじ登る米国協力者たち。

打ち破られた米軍とその協力者たちの場所をあけるために避難用の米国艦船から押し出される25万ドルのヘリコプター。

 米国とNATOが大統領の地位に就かせたハミド・カルザイのカブール傀儡政権とともに、米国とNATOもますます苦境におちいり、新たなオバマ政権は、アフガニスタンに対する「異なった戦略」を約束している。米国とNATOは、そのための手段方策をもっているのであろうか? またそれは機能するのであろうか? 2001年以来の、そしてまた特にここ2年の、アフガン・レジスタンスがなしとげた前進から判断すれば、オバマの新「戦略」は、たぶんまちがいなく「脱出戦略」に変容するだろう。1975年4月29日に侵略者米国が、尻に火がついて、勝利者であるベトナムのレジスタンスから逃れたときと同様に。たぶん米国とNATOは、敗北を「名誉ある和平」と見なすために、面目を保つためのもうひとつ別の無益な試みとして新たなヘンリー・キッシンジャーを見出すことだろう。