番組紹介
『あの夏を描く 高校生たちのヒロシマ』(ETV特集)
『原爆の絵 高校生が描く“ヒロシマ”』(NNNドキュメント'19)
被爆者の証言に正面から向き合い悪戦苦闘する高校生たち
  

ETV特集「あの夏を描く 高校生たちのヒロシマ」
NNNドキュメント’19「原爆の絵 高校生が描く"ヒロシマ"」


 この夏、奇しくも同じ取り組みを描いたドキュメントが2本放送された。その取り組みとは、被爆者の証言に基づきその貴重な「体験」「光景」「記憶」を現役高校生たちが絵画にする企画。これは、広島平和記念資料館の要請にこたえる形で、広島市立基町高校の美術専攻の1・2年生が自発的に参加して行われる。2007年から始まった企画は、今年で12年目を迎え、計137枚の絵画ができあがった。なんといっても心を打つのは、貴重な証言をしてくれた被爆者の期待に何としても応えようと悩み、もがき、苦悩し、それでも投げ出そうとせず真摯に絵画の制作に向き合う高校生たちの姿。2つの番組で取り上げた計4人の高校生の生の悪戦苦闘ぶりを紹介したい。

「避難する人と力尽きた人」
 絵を担当するのは福山市在住の女子高生。絵の題材は傷つき山の方に逃げていく人達と、その横の河原で倒れた人。最初はスムーズに筆が進むが、ある時パタッと筆が止まる。「私はおろかでした。(描いている人の)服装が全部モンペ」。そこから苦悩が始まり筆が持てない。「自分ってなんで“原爆の絵”描いているんだろう」の自問自答の繰り返し。しかし、絵の中に描いた人それぞれに人生があり、それを(逃げずに)表現しようと心に決め、自慢の長い髪をバッサリ切り、再びキャンパスに向かう。「(今までは)原爆の絵ってこんなもんかなあとちょっと妥協している部分が正直あったというか・・・今そういう自分を思いきり殴りたい。バカヤロウみたいな」と。

「放置されたままの黒い死体」
 絵を担当するのは緑が大好きな女子高校生。絵の題材は、狭い路地に横たわる黒い死体とその横を無関心で通り過ぎる女性。焦点は「無関心」。死んだ人が横にいながらそれを、どうしてあげようという気持ちが起こらない。心がなくなる。その戦争の恐ろしさ。何度も女性を描くが、そのたびに違和感が。「女の人が描けない」「顔が顔にならん」。筆を持てず好きな緑の手入れに逃げ込む。その時にこんなことを言う。「責任重いじゃないですか“原爆の絵”って」。5か月間、布団に入った時いつもこの時の女性の心情を考え続け、出した答えが目を髪で隠すことだった。観る人に考えてもらうために。

「流れ着いた棺代わりの木箱」
 絵を担当するのは鉛筆画を得意とする男子高校生。おじいちゃんが被爆者だ。絵の題材は、広島から少し離れた宮島口の海岸に打ちあがった木箱、実はその中は死人。広島で死んだ人を木箱に詰め川に流したものが、潮の流れに乗って宮島口までたどり着いた。被爆者の方は言う。「海岸の潮の香りに混じった鼻に突き刺すような悪臭。これが忘れられない」と。絵を描こうとするが、もちろん絵で匂いをあらわすことはできない。何度も「もうわからないんだよ」と叫び筆が止まる。それを打開するために証言された被爆者の方と一緒に、現場である宮島口の海岸まで足を運ぶ。

「絶望・死にゆく人」
 絵を担当するのは市内に住む女子高生。絵の題材は、顔も体も真っ黒こげとなり、トタンのひさしの中でじっと座っているだけの女性。何度も女性の表情を描くが納得できない。そのたびに女性を背景の色=灰色で塗りつぶし、一からやり直し。周りからは「とうとう自暴自棄になった」と言われる。ついにはプレシャーから体調を崩し授業も休みがちに。

 高校生たちは絵画制作に行き詰まると、教室で映画「ひろしま」を見たり、平和祈念資料館に出かけ被爆者自身が描いた絵を鑑賞し、絵画制作のヒントと勇気を得ようとする。そして各自の絵の完成後、待ちに待った最高に緊張する日がやってくる。被爆者の方に絵を披露する日だ。被爆者から「ありがとう」「すばらしい」「よく感じが出ている」と言ってもらった時の、高校生の晴れやかな顔は何とも言えない。
 こんな素晴らしい高校生たちがいることに、日本の平和学習も、平和運動もまだまだ捨てたもんじゃないと思えた番組であった。

2019年9月5日
リブ・イン・ピース☆9+25 H