衆院選を前に、自衛隊海外派兵反対から容認に転じた民主党 リブ・イン・ピース☆9+25は7月19日の例会で、日本政府の対北朝鮮戦争挑発と軍事対決路線の危険をテーマに取り上げた。本シリーズ「脅威を煽っているのは誰か!?」ではその報告と議論をもとに、「敵基地攻撃論」の批判や、米軍世界展開の拠点であり対北朝鮮出撃基地ともなる在日米軍基地の危険などについて明らかにしていくものである。 政界は衆院解散から、8月18日告示、8月30日投開票の総選挙に向かって走り始めている。安倍、福田と政権を放り投げ、支持率を暴落させた自民党政権と政権奪取を掲げる民主党との対決である。戦後はじめて、本格的な政権交代が起こる可能性も出てきている。私たちは戦後政治を牛耳ってきた自民党政権が崩壊することを歓迎する。 だが総選挙を前にして、民主党は従来の反対・見直しの主張を後退させ、主要な軍事外交政策で対米協調に大きくシフトし始めた。マニフェストにおいて、ソマリア海賊対策問題では、自衛隊派遣そのものを容認した。インド洋での給油活動中止と自衛艦撤退を削除した。「抜本的改訂に着手する」としていた日米地位協定について、「改訂を提起する」に後退した。思いやり予算も削除の対象にはなっていない。「慰安婦」問題での謝罪と賠償も入っていない。さらに核持ち込みに対する鳩山由起夫代表の容認発言がある。これが彼らの言う「現実的対応」である。 少なくとも民主党はこれまで自民党の海外派兵政策とは一線を画し、イラク派兵やインド洋給油活動には反対の姿勢を示してきたはずである。民主党は、インド洋給油活動については「国連決議によって担保されていない」として一貫して反対し、新テロ特措法の廃止を主張してきた。ところが「政権奪取」を目前に控え、その政策でインド洋からの自衛艦の撤収を削除してしまったのである。 ※民主が海賊対策に海自容認、外交で現実路線(読売新聞) 対北朝鮮政策では、自民党と変わらない強硬姿勢 私たちが特に危機感をもつのは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する政策である。民主党は「貨物検査の実施を含め断固とした措置をとる」などと自民党顔負けの対北強硬姿勢を前面に押し出している。「臨検特措法」は解散によって廃案になったものの、秋の臨時国会でこの法案が最大の目玉になる可能性がある。一方自民党は、臨検特措法の成立を公約に掲げている。北朝鮮への「弱腰批判」を回避するために民主党が強硬に出してくることも考えられる。対北強硬姿勢で殆ど差異はない。 ※民主がマニフェストに対北貨物検査実施を明記(産経新聞) 対米軍事協力を最優先課題とし、一方ではイラク・アフガン・ソマリアと自衛隊海外派兵の実績を次々と積み上げ、他方では北朝鮮の脅威を煽って戦争挑発を繰り返す−−これが自公政権の進めてきた基本政策であった。自民党は、今年12月の防衛大綱の見直しに対して、憲法改悪、武器輸出三原則、敵基地攻撃能力、集団的自衛権等の提言を行っている。政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」は、同様に集団的自衛権の行使の条件検討の段階に入っている。 ※集団的自衛権行使 武器三原則緩和を勧告 政府・安防懇報告書原案(産経新聞) 2007年11月、ねじれ国会のもと民主党はインド洋給油問題で徹底抗戦し、イラク流用疑惑、20ガロンねつ造疑惑、守屋防衛省汚職事件等々の追及の中からインド洋からの自衛艦の撤収に追い込み、約4ヶ月にわたって給油活動を停止させている。福田政権は、国内課題を犠牲にして対米関係を最優先させ、国会延長と60日規定再議決で対抗することで新テロ特措法を強行成立させ給油活動を復活させた。だが与野党対決のもとで福田政権は行き詰まり崩壊した。インド洋からの自衛艦撤収と給油活動の停止を勝ち取ったのは、政権を追い詰めるための単なるパフォーマンスに過ぎなかったというのであれば大問題である。 民主党は、マニフェストへの批判の声の高まりを前にして、来年1月のインド洋給油再延長はしない方針に言及し始めた。だが全くの詭弁である。民主党はインド洋給油反対を明確にし、即時の廃案を目指すべきである。 米政権と日本の財界、連合の右翼的部分に依拠する民主党の危険 民主党の動揺の根底には、米国との対話と圧力があるのは間違いない。とすれば彼らの言う「対等の関係」「はっきりとものを言う」などという基本姿勢自身がすでに破綻している。ブッシュの戦争への協力を至上命題とした小泉政権、安倍政権、福田政権といったいどう違うというのか。とりわけ安倍、福田政権はインド洋給油で行き詰まり破綻した。米の意図をくみ自粛する、米が望みそうなことをあらかじめ追求する、自衛隊が米軍の活動を肩代わりする――小泉政権で本格化した「自主的対米従属」路線である。 また、民主党は財界との対話も行った。日本経団連は財界の側から「武器輸出三原則」見直しなどの提言を執拗に出している。さらに、ソマリア派兵問題では連合系の「全日本海員組合」の意向を受け、自衛隊派兵容認に動いたという。民主党が米政権と日本の財界、そして従来からの支持基盤である連合系労組の右翼的な主張を配慮し取り入れていくとすれは、私たち市民の本来の要求、利害とかけ離れたものになってしまうだろう。 ※選択の手引:’09衆院選 民主、海賊法案反対の裏で… 船員組合に成立示唆(毎日新聞) 世論と運動を強めることが何よりも大事 現在のような選挙をめぐる動向では、本当に労働者や勤労者の利害に立ってどちらの政党に票を入れるべきかというような問題の建て方をすることができない状況がある。だがそれでも政権交代は大衆運動にとってもチャンスである。民主党はそもそも自民党、旧社会党、旧民社党、市民運動系のそれぞれの出身者が集まるという矛盾を抱えている。そして民主党主導政権が誕生すれば、米や財界と協調する与党の側面と、これまで野党として運動とのつながりを持ってきたという側面をもつことになる。民主党の動揺を許さず、後者を押し出させていく運動の力が必要である。日本政府がこれまで進めてきた対米軍事協力最優先、対北朝鮮挑発、海外派兵、有事体制構築の軍事外交安保政策を根本的に転換し、真の意味での朝鮮半島・東アジアの緊張緩和に資するような世論と運動を強化し、政策転換を押しつけていかなければならない。とりわけ北朝鮮バッシングは、世論が日本の軍拡・軍国主義化を容認する重要なプロパガンダとして働く。私たちは、このシリーズで、脅威の根源が日本政府の戦争挑発と在日米軍基地にあることを明らかにしていきたい。 2009年7月31日 |