シリーズ:脅威を煽っているのは誰か!?――日本政府の戦争挑発と在日米軍基地の危険(その3)
ソマリア沖派兵で、武器使用と集団的自衛権の行使に限りなく近づいている
[番組紹介]「変ぼうする自衛隊派遣・海賊対策の最前線」(クローズアップ現代7月1日放送)

「海賊対処」は、武器による威嚇と行使を条件とした危険な任務
 7月1日放送のクローズアップ現代「変ぼうする自衛隊派遣・海賊対策の最前線」は、ソマリア沖に派遣された自衛隊が、主たる任務を「海上警備活動」=海の治安活動とし、武器使用を不可欠の条件としながら、派遣された他国の軍隊とともに集団的自衛権の行使に踏み出すぎりぎりにまで近づいている危険な状況を伝えていた。
 従来の自衛隊派遣は曲がりなりにも、給水活動などの「復興支援」、米軍への給油活動などの「後方支援」などを名目としていた。あくまでも「武器使用」はそれらの任務を遂行する上で、攻撃にあった場合に自己を守る「正当防衛」のためのものであった。しかし、今回のソマリア沖派兵は、「海賊対処」が任務であり、それは「武器による威嚇と行使」を条件としている。つまり、自衛隊が持つ軍事力の行使が前提とされ目的とされているのである。したがって、その訓練ももっぱら「武力による威嚇と行使」=射撃訓練が最大の中身になる。
 しかも、海賊対処法が初めて「自国の国益の保護」を目的に掲げた海外派遣法であることを考えれば、武器で国益を守るという異常さは一層浮き彫りになる。番組はそのようなソマリア沖自衛隊派兵活動の本質的な変化の危険を伝えている。

任務遂行に不可欠の射撃訓練
 番組冒頭、射撃訓練を強化する海上自衛隊が映し出される。ソマリア沖での武器使用に備え訓練を行っているのだ。これまで海外派遣で武器使用したケースはない。現場では海上自衛隊の対潜哨戒機2と護衛艦2隻が民間商船の「護衛」に当たっている。 
 7月24日、ソマリア沖自衛艦活動の根拠が、自衛隊法を拡大解釈した「海外警備活動」から、海賊対処法に基づいた警護活動に切り替わった。同28日から実際に護衛艦「はるさめ」「あまぎり」が外国船を対象とした「護衛活動」を開始している。
 この新しい法律では、海外派遣法として初めて「任務遂行のための武器使用」が付け加わった。海の治安維持のために自衛隊が公然と武器を使用することが認められているのである。それによって、従来にない射撃訓練が開始されたというのが冒頭映像だ。
 派遣される前の護衛艦「はるさめ」。警告射撃訓練が集中的に実施されていた。突然教官が「オフセット=目標を外すように。目標に命中しているぞ」と叫んで射撃を中止させる。射撃訓練では、目標に命中させないように周辺の海面を狙って銃弾を撃ち込むが、揺れる海面で警告射撃が命中してしまう危険を報じている。ヘリコプターに乗り込んでの警告射撃訓練も行われている。ヘリが現場に先に到着し警告射撃する可能性が高いからだと説明される。
 だがこれらは、憲法9条が禁じる「武力による威嚇または行使」そのものである。漁民と「海賊」の区別などつかない。日本から遠く離れたソマリア沖で、自衛艦が漁場を我が物顔で航行し、積み荷を守るために漁船に警告し威嚇射撃をする−−これが自衛隊ソマリア派兵の現実の姿である。
 護衛の対象となる船舶は外国船にまで拡大され、警告を無視して近づいてくる海賊船に対しては直接射撃もできるようになる。これによって警告射撃(威嚇)の枠をも超え、正真正銘の武力行使となる。
 ナレーターは「武器使用につながる活動は、自衛隊の歴史の転換点となるうるものです。」と伝えている。

銃撃戦を想定した艦内体制
 護衛艦内は、戦闘準備態勢にあり、銃撃戦に備えた24時間体制が取られている。6月の「さざなみ」乗り込み取材の様子では、機関銃を構える隊員の姿が目立ったという。機関銃は通常の倍の4丁に増やされ、説明役の隊員が「射手を2名常時配置していまして、何かあったときにはすぐに対応できるようにしています。機関銃の防弾板の後ろに防弾の盾を着けて、相手からの攻撃にも耐えられるようにしています」と説明した。艦内には「戦時治療所」と呼ばれる医務室があり、医官(医師)、歯科医師、救急救命士、放射線技師、臨床検査技師の6名を追加して、10名の体制をとっている。銃撃戦がいつ始まってもおかしくない緊張の中にある。また、自衛隊員への民間任意保険の説明会も開かれていた。戦死が差し迫ったものとして想定されている。

なし崩し的に集団的自衛権の行使に踏み込む
 番組は、もう一つの重要な問題を伝えていた。これは、海賊対処法という枠組みでは見えてこないものだ。国谷キャスターは「今自衛隊はソマリア沖アデン湾で海賊対策で20カ国が送り込んだ海軍と協力して、日本に関係する商船の安全確保に海上警察行動を行っています」とさらりといっている。明らかに日本の自衛隊は、20カ国が行う共同軍事作戦の一環として海賊対処活動を行っているのである。
 ソマリア沖自衛艦派遣は、とりわけ米海軍との密接な関係のもとで行われている。米軍側からの異様とも言える厚遇ぶりからも伺える。活動拠点となるジプチの基地では、到着を祝うアメリカ軍主催のパーティが催されていた。米軍司令官が「海上自衛隊のP3Cがアフリカに初めて派遣された、記念する日です」と絶賛した。海上自衛隊の隊長が、「米軍のサポートに感謝する」と謝辞を述べた。米軍は派遣部隊の事務所用にとコンテナ施設を一つ明け渡していた。派遣隊員150人分の部屋も用意されていた。食事も食堂で提供され、ほかの米兵と同じように生活していた。異例の対応だ。
 バーレーンの合同司令部ではアフリカや中東諸国での海賊対策や「テロ対策」で20カ国以上が集まっていた。ここでは、海賊対策と「テロ対策は」一体となり、従ってアフガニスタンに対する対テロ作戦CTF150と、新たな作られた海賊対処作戦CTF151が渾然一体となっている。海賊対処に派遣されたはずの自衛隊が、知らず知らずのうちにCTF150に組み込まれる危険があるのである。
 各国からの情報を集めるため自衛隊は新たに2名の連絡官を派遣している。司令部では毎朝合同部隊のブリーフィングが行われ、各国海軍の動向や海賊の情報を共有しているという。P3Cを派遣している国とは現場活動の進め方についても意見を交わしていた。番組では、海上自衛隊の連絡官がドイツ軍の隊員に「不審船に発煙筒を落とすのはどうか」とアドバイスを求め、ドイツ軍が「余り近づくとロケットランチャーの射程に入りますよ」と答えている場面が映っている。連絡官は「ナショナルミッションということでありますが、我が国単独では情報収集が不可能ですので、各国と情報を交換し、様々な必要な参考事項を聞くことは、我々の効率的な任務遂行には大きく貢献するので、これは必要不可欠なものだと考えています」と発言した。

P3Cは米軍にとって「神の恵み」?
 日本の派遣部隊は表向き合同部隊の指揮の下には入らず独自の取り組みをしているとしているが全くのまやかしである。各国海軍からは貴重な戦力として受け止められていた。20に上る国が海賊対策に取り組む中、P3Cを投入している国は5カ国しかないからだ。米海軍、米沿岸警備隊は約200機のP3Cを世界の主要海域に展開しているが、海上自衛隊は米に次ぐ約100機ものP3Cを保有し、日本周辺海域だけを対象に配備している。この冷戦時の対ソ戦略の要としてのP3Cを海外派遣し活用しようというのが今回の策動である。P3Cの配備は情報の共有と共同行動を前提とする。米の異例の対応は、自衛隊のP3Cを世界に派遣することへの期待の表れと考えてもおかしくない。
 合同部隊の副司令官は「P3Cは過大な威力の追加になります。日本のP3Cは、まさに神の恵みです。日本とともに海賊の脅威と戦うことを期待しています」と発言した。各国海軍と補完しながら、日本のP3Cを運営している。海軍全体の戦略や作戦をとりまとめるクラウダー中将は「自衛隊が海賊対策の任務に乗り出したことはとても重要であり、政府のこの決断は日本が今後、国際社会共通の重要課題に対して、より積極的な役割を担っていくという姿勢を示したものと受け止めています」と発言した。つまり海賊対処へのP3C派遣は、さらなる世界展開への1ステップに過ぎないというのである。

北朝鮮臨検特措法とだぶって見える海賊対処法 
 この番組をみて、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の貨物船に対する臨検活動の危険にだぶらせずにはいられなかった。任務遂行のための威嚇、威嚇射撃、船体射撃は、そのまま対北朝鮮籍船への臨検に適用できるからだ。北朝鮮船追跡に海上保安庁巡視船と自衛隊艦船、P3C対潜哨戒機が動員されるようなことになれば、まさに海賊対策の日本海版だ。米軍は実際、6月下旬から7月上旬にかけ半月以上に渡ってKH12偵察衛星やP3C海上哨戒機を使って北朝鮮籍貨物船の監視・追跡を行っている。これに日本が動員されることになってしまう。そもそも、北朝鮮を狙い打ちにする臨検法の存在自身が緊張を高め、北朝鮮への脅威となるのは間違いない。

2009年8月18日
リブ・イン・ピース☆9+25