シリーズ「尖閣諸島問題」をどう見るか ──歴史的経緯を中心に
(はじめに)「領土ナショナリズム」と粘り強く闘おう

 尖閣諸島問題を契機として中国の軍事的脅威がマス・メディアによって煽られ、反中・嫌中感情、中国を敵視する風潮、中国人を蔑視したり危険視したりする風潮が広がっている。竹島(独島)問題、「北方領土」問題も重なり、「領土ナショナリズム」として人々の感情に影響を与え、軍事的対抗措置や日米軍事同盟の強化を容認・歓迎する雰囲気が作られている。それが集中的に表れたものが、昨年末の新防衛大綱の策定と中国・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を「仮想敵」とした相次ぐ大規模軍事演習である。

 沖縄県石垣市で1月14日「尖閣諸島開拓の日を定める条例」制定を記念した式典が行われているなど、尖閣諸島問題はナショナリズムを煽る大きなテコとなり続けている。1月21日には衝突ビデオを流出させた海上保安庁の保安官が不起訴処分となった。ビデオ流出事件は、中国漁船への人々の怒りを煽るための世論誘導であり、明らかに海上保安庁の活動を誇示し「中国漁船の悪辣さ」を情緒的に植え付けることを目的とした確信犯であった。海保の巡視艇が小さな中国漁船に対して執拗な追跡や嫌がらせを行っていたこと、中国漁船に対する海保巡視艇の行為自体が日中漁業協定での慣例に違反することなどを冷静に報じたマス・メディアは皆無であった。何度も何度も衝突の場面をセンセーショナルに伝え続けた。
 自衛隊と同様の暴力装置である海上保安庁の保安官が、政府や政治の思惑・コントロールを超えて暴走したという危険性を抜きにして英雄視することは、制服組・軍部の台頭を許す極めて危険な行為である。ビデオ流出事件は「シビリアンコントロール」を危機に陥れるものとして厳しく断罪されなければならない。海保は武器を携行し、国境警備で領海侵犯と対峙する組織であり、海外では軍事力、軍隊にカウントされている。ところがこの事件を逆手にとって政府は、海上保安庁の船舶への体当たりを含む強制的停船の権限拡大を狙い、さらに海上自衛隊との連携強化を打ち出している。

 現在の尖閣問題の直接の発端は昨年9月7日の中国漁船衝突事件ではあるが、伏線はそれに先立つ6月の菅政権の閣議決定にある。尖閣諸島が日本の領土であるという閣議決定は自民党時代から続いていたが、尖閣問題の棚上げを趣旨とする5月の鳩山首相(当時)の発言に対して参議院議員の佐藤正之氏が質問主意書を提出しそれに回答する形でなされた。それがちょうど鳩山首相による「普天間移設は少なくとも県外」の公約破棄、「日米共同宣言」と全く同時期に行われたことを考えるならば、鳩山政権の半年に対する右翼勢力からの巻き返しであった。この閣議決定以降、尖閣諸島をめぐって、海保の現場でも対中国漁船敵視・取り締まりが強化され、露骨な監視活動、敵対行動が強まったと考えられる。事件は、そのような激しい監視敵対活動の中で起こった。閣議決定から3ヶ月後であった。中国漁船の拿捕と船員拘束――9月7日、午後1時前。船長逮捕、翌8日未明。この間、菅首相、前原外相、岡田幹事長、仙谷官房長官ら政権トップが協議し、船長逮捕という強行方針を打ち出したのである。決して偶発事件でも、中国漁船側からの挑発でもない。
 大手メディアは“普天間問題での日米同盟の動揺が中国につけいるスキを与えた”、“うかうかしていたら領土を盗られてしまう”、“だから日米安保が重要だ、海兵隊駐留が必要だ”というような扇情的な報道を行っているが、これは流言飛語のたぐいである。尖閣諸島に関して紛争を仕掛けているのは一貫して日本政府であり、中国は日本が行動を起こす限りで受けて応じたに過ぎない。にもかかわらず、今回の衝突事件は、自衛隊を増強・再編し、日米同盟を軍事同盟として深化・発展させ、さらに米日韓の対中包囲網を形成するための口実として利用されているのである。
 今必要なのは日中共同声明、日中漁業協定の基本精神に立ち返ることである。

 私たちはこのシリーズで、中国漁船の拿捕と船長逮捕が、日中漁業協定の運用の慣例や尖閣問題の棚上げ合意に反するものであること、「尖閣諸島は日本の固有の領土」という主張が歴史的諸事実に反した扇情的なデマであること、そして、日本政府や市民が中国に対する時は、侵略戦争と植民地支配の被害と犠牲の甚大さを決して忘れてはならないことなど、歴史的経緯を中心として検討することにしたい。「領土ナショナリズム」「固有の領土論」との粘り強い闘いにとりくもう。

2011年2月8日
リブ・イン・ピース☆9+25


シリーズ「尖閣諸島問題」をどう見るか ──歴史的経緯を中心に
(はじめに)「領土ナショナリズム」と粘り強く闘おう
(その1)なぜ「尖閣諸島問題」が起きたのか
(その2)日本政府による「尖閣諸島は日本固有の領土」という主張は真実か
(その3)日本は、敗戦で尖閣諸島を放棄しなかったのか
(その4)「棚上げ」合意のもう一つの重大な意味