4月14日の熊本県を中心とする九州地方の大地震の最初の発生から21日で一週間がたちました。今も被災地では、連日数十回もの地震が発生する恐怖の中での生活が続いています。9万人近くが住宅から投げ出されています。食料や水、衛生用品など必要最低限の物資さえ届かない状況が続きました。一週間たってもまだ混乱が続いています。支援物資は全く不十分です。食料を求める長蛇の列、エコノミークラス症候群発生の危険もある駐車場の車中泊、ぎっしりと詰まった体育館など甚大なストレスに晒される被災者たちの姿が映し出されています。関連死も発生しています。 私たちは安倍政権の地震・被災地対応に対して強い不信と怒りを禁じ得ません。今回の群発地震のかつてない性格、被害の状況、被災者の必要などをまともに把握しようとしてきませんでした。「激甚災害指定」を引き延ばし、この地震とその被害を実態よりも出来る限り小さく見せようとしています。 ところが最初の地震からわずか約半日後の15日午前に記者会見をした菅官房長官は、緊急事態条項を「憲法改正」で新設することについて「極めて重く大切な課題だ」と語っているのです。首相官邸がいったん救急救命対策を収束方向に向かう中での発言です。この地震と災害を、かねてからもくろんでいる改憲に利用しようという悪質な意図です。地震の一週間で安倍政権が熱中したのは、川内原発の強行運転とオスプレイの派遣だけと言っても過言ではありません。 のちになってから地震と被災地に対する対応の混乱について「だから緊急事態条項は必要だったのだ」などと言い出しかねません。現地の混乱は「緊急事態条項」がないからではなく、安倍政権が地震と被災者支援にまともに取り組んでいないことから起こっていることです。どさくさに紛れて「緊急事態条項」や改憲を持ち出すなど決して許されません。私たちは安倍政権に対して、被災地対応を何よりも最優先し、被災者支援に全力を挙げることを要求します。 複数の断層が動くかつてない群発地震 熊本・阿蘇・大分と九州全域で勃発した巨大地震は観測史上異例ずくめです。気象庁は「内陸で起きた地震としては、これまで例を見ない活発な活動が広域に起きており、震源域は東日本大震災より広い」と発表しています。 14日午後9時26分ごろ震度7の地震(マグニチュード6.5)が発生しました。日奈久(ひなぐ)断層北部での地震です。その後16日午前1時25分ごろに震度6.5(のちに7に修正)の地震(マグニチュード7.3)が発生。当初14日の地震が本震とされましたが、実際は前震であり、16日の地震が本震と修正されました。16日の地震は布田川(ふたがわ)断層帯が動いて起こりました。さらに16日午後7時11分には別府−万年山(はねやま)断層帯が動き震度5弱の地震が発生しました。21日時点で震度7が2回、6強が2回、6弱が3回、5強が3回、5弱が7回、4が75回、計92回、震度1以上の地震がわずか一週間で781回の地震が襲い、しかも複数の断層が動くというかつてない地震です。震度7の地震が連続する事態は全く初めてのことです。3つの断層帯に加えて今回の地震で初めて明らかになった「未知の断層」も動いています。前震、本震などの従来の概念が通用しないのではないかという専門家の意見もあります。続いて阿蘇山が小規模噴火しました。一連の地震との関係はわかっていません。中央構造線断層帯が動き始め、日本列島全体が地震活動期に入った可能性があります。今も全く収束していません。 ※熊本地震発生前の4月3日放送のNHKスペシャル「巨大災害 MEGA DISASTER U 日本に迫る脅威 地震列島 見えてきた新たなリスク」は最新のGPS観測データを用いた研究に基づき、日本列島全体が大小のブロックによって分断され、マントルの動きによって日本列島の地盤が変形しており、巨大地震が引き起こされる可能性を指摘している。番組では、活断層が確認されていない地域での地震の頻発(鳥取)などかつてなかった新しい地震動についても伝えている。
川内原発の即時停止を こんな状況にもかかわらず、政府・規制委員会と九電は詳細な状況報告もなしに「停止の必要はない」と川内原発の稼働を強行し続けています。「これまでの揺れが基準地震動を下回っている」というのです。たしかにいままでのところ今回の地震で川内原発敷地内で観測された揺れは基準地震動の620ガルを下回っています。しかし今回の地震は従来の経験則を外れた異例の群発地震です。気象庁さえ収束するのかどうかさえわからないとし、警戒を呼びかけています。複数の断層が同時に動き、さらに大きな地震が起こる可能性さえあります。周辺の工場群が操業を停止している中で川内原発だけが動くと言う異常な状況です。“止めたら原発の危険を認めてしまったことになる”とばかりに原発の運転が強行されています。基準地震動を上回ってからあわてて止めようとしても遅いのです。 今回の地震では、震度6強から7でも補修せずに使用できるという耐震基準(1981年)を満たした施設でも震度7の地震を二回受けたことで倒壊の恐れがあり使用禁止となりました(鉄筋コンクリート3階建ての益城町役場、日吉市本庁舎、小中学校の体育館など)。震度7が連続するという全く新しい地震に直面しているにもかかわらず、従来の基準で安全性を考えるのは危険すぎます。川内原発のみならず、震源の150キロ圏内には東に伊方、北西に玄海を加え3つの原発があります。伊方原発はのわずか6キロ北側には中央構造線断層帯があり、今回の地震はこの延長線上です。もはやどこが震源になるか分からない状況です。 3.11事故5周年をむかえ、今だに避難者が10万人にも上り、広大な地域が居住不可となっています。政府は自主避難者への住宅支援の打ち切りと20ミリシーベルト基準を根拠にした強制帰還させる方針です。そもそも福島原発事故の原因(地震によるものか津波によるものかなど)やメルトダウンした炉心の現状さえ明らかになっていません。福島原発事故によってもたらされた甚大な災禍を繰り返さないために、危険な原発は今すぐとめるべきです。 規制委員会は40年超えの老朽原発である高浜1・2号機の原子炉設置変更を許可しました。さらに、中央構造線断層帯のすぐそばの伊方原発の再稼働を認めました。今回の群発地震や日本列島の活断層の状況などを考えれば、危険きわまりないことです。全原発の稼働断念と廃炉を決定すべきです。 ※【拡散希望!】4.21九電緊急行動&賛同署名 ★熊本地震:川内原発を停止し、総点検せよ! ※25日<緊急政府交渉>40年超え老朽炉を廃炉に/川内原発直ちに停止を!(原子力規制を監視する市民の会) ※[共同声明]住民の命を危険にさらす、デタラメ耐震評価(4月20日)40年超えの高浜原発1・2号機の原子炉設置変更許可に抗議(美浜の会) ※熊本地震、異例の展開 「震度7」2度、震源域拡大 [熊本県](西日本新聞) 危険なオスプレイを撤収させよ 安倍首相の関心はこの震災をどう政治利用するのかにしかありません。安倍首相は17日、突如米海兵隊の垂直離着陸機オスプレイMV22の投入を決めました。一旦は“米軍に要請するつもりはない”と記者会見しながららわずか数時間後にオスプレイ投入を発表しました。中谷防衛相は18日の参院委員会で「米側から協力の申し出があった」と答弁していましたが、米軍の「星条旗」紙が、日本政府が早くも16日に米国務省に震災支援を要請したと報じています。地震直後からオスプレイ投入を要請しながらそれを隠し、米軍の返事がきたとたんに米軍の要望であるかのように発表したのはあきらかです。 ※US military prepares to aid Japan after massive earthquakes(Stars and Stripes ) オスプレイは、陸上自衛隊高遊原分屯地(熊本県益城町)で物資を積み込み、着陸しやすい南阿蘇村の白水運動公園まで空輸しました。そこから先は物資を自衛隊のトラックに積み替えて運びました。飛んだ距離はわずか27キロ。オスプレイは速度や航続距離でヘリコプターより有利といいますが、そのようなことは全く問題にならない距離でした。当然飛行機モードで滑走するような土地もありません。そもそもオスプレイは戦闘員輸送用であり、積載できる物資量が極端に少ないことは常識です。オスプレイよりも格段にたくさんの物資を積めるヘリ「CH-47J」が70機もあります。オスプレイの専門家で米国防総省の国防分析研究所のレックス・リボロ元主任分析官は“CH47を豊富に投入できる体制にありながら、なぜMV22を使う必要があったのか”と疑問を投げかけ「オスプレイを認知してもらう機会だったのではないか」と批判しています。 ※被災地でオスプレイPR? 米専門家「理解に苦しむ」「自衛隊ヘリが適当」(沖縄タイムス) 目的はとにかくオスプレイを使って馴れさせること。「オスプレイが役に立つ」という実績も無理矢理にでもつくり、在日米軍を受け入れさせるとともに、自衛隊が導入するオスプレイの佐賀空港配備に道をつけるための、パフォーマンスでしかないことは明らかです。しかし、オスプレイの墜落事故は多発し、離着陸時に激しい熱風と爆音を発するきわめて危険な兵器です。 ※シリーズ:オスプレイ固有の根本的な危険性(その三) 実証されたことがないオスプレイの「高性能」(リブ・イン・ピース☆9+25) ※オスプレイ高重量で墜落リスク モード転換時 急激降下(琉球新報) ※[オスプレイ配備を許すな(27)]本当はそんなに積めない、飛べない(リブ・イン・ピース☆9+25) 一連の記事で、転換モードを使用した場合、積載量が多いと失速・墜落する危険があるため「最大積載量」を積むことは事実上不可能であることが指摘されている。オスプレイはヘリコプターとしてのみ使うにしては機体自身が異常に重く非効率で、今回の活動ももっぱら物資輸送のパフォーマンスでしかない。 自衛隊と米軍は18日、熊本市の陸自西部方面総監部に、物資輸送の割り振りをする「日米共同調整所」を設置しました。これは軍事物資輸送を想定した、被災地を訓練場とする日米の軍事演習に他なりません。あまりにも被災者を愚弄するものです。 ※米軍オスプレイ、初の災害対応 実績づくりに疑問の声も(朝日新聞 動画) 報道された「物資輸送」の映像を見ると、自衛隊員がオスプレイから荷物を抱えて目的地に走っていくなど、単なる「配達員」ではなく、日米共同で軍事物資の輸送訓練をしていることがわかる。 「激甚災害指定」を引き延ばす異常 安倍政権は地震や被害の状況を全く把握できず、支援を先延ばししただけです。翌15日には「全避難者の屋内避難」を指示しました。今回の群発地震の特徴や被災者の状況を全く無視した無責任な指示です。熊本県知事は建物倒壊を恐れる「避難者の気持ちを分かっていない」と批判しました。 すなわちこの時点で、今回の地震発生がこれまでの経験で推しはかれないものであることが、熊本県の住民には認識されていたのです。 ※知事「現場分かってない」…「屋内避難」に反発(毎日新聞) 実際、14日の地震によって一旦屋外待避した避難者が15日になって自宅に戻り16日未明の地震によって家屋が倒壊したことで被害が拡大しました。安倍政権の全く現場を知らない、危機感が欠落した言動や指示が被災地の被害を増幅し、犠牲者を拡大しているのは間違いありません。 21日 午後6時半時点で、死者48人、関連死10人、安否不明2人、重軽傷1159人、 避難9万242人、損壊1万678棟という甚大な被害です。 信じがたいことに安倍政権はいまだに一連の地震と被害について「激甚災害指定」を行っていません。15日に熊本県知事が指定を要請したにもかかわらずはねつけました。今になってようやく「来週にでも指定」との声が政府内から出始めたにすぎません。安倍首相は政治的思惑(川内稼働継続、消費税増税、衆参ダブル選挙など)から、できるだけ震災を小さく見せようとしているのではないかという見方さえ出ています。また政府の責任と予算措置を回避するためにずるずると引き延ばしているのではないかという見方もあります。それらが荒唐無稽とも言い切れないほど安倍政権が取っている対応はあまりにも遅く、異常であり、謎なのです。首相のお膝元の山口県豪雨被害(2013年7月)では発生からわずか4日後に「激甚災害指定」をしています。被害の広がりや激しさからすれば、今回の地震ははるかにそれを凌駕しています。 ※熊本地震の「激甚災害指定」は遅い? 被災者支援に必要な法制度を解説(弁護士ドットコム) 上記の政治的思惑や熊本県の財政事情、蒲島知事との確執、3兆円と言われるオリンピック経費の捻出、そして5兆円を超える軍事費の優先等が背景にあるとすればそれは政権の都合による被災地切り捨て、被災者の放置です。許されません。すべてに優先して被災者支援が行われるべきです。 安倍政権は、全力で被災者支援を行え 安倍政権は現場のニーズを把握するなどと言い続けながら支援を先延ばしし、ようやく「90万食のプッシュ型支援」に乗り出したのは震災発生から5日後です。しかしこの90万食も大きくは見えますが、避難者9万人のわずか3日間の食糧に過ぎません。これ自身がパフォーマンスなのです。現地が本当に必要としているものとは合致していないと批判されています。今まさに問題になっている命をつなげる活動が軽視されています。一方で支援物資の支給で最も威力を発揮したのは市民レベルでの連携やSNSでの自主的な情報発信による支援物資の融通でした。全国からも市民レベルで多くの支援物資が届けられています。 私たちは安倍政権の現在の地震被害対応を批判し、政治利用をやめるよう要求します。事態の甚大さを認め、全力で被災者支援を行うべきです。川内原発を今すぐとめるべきです。事故が起こったらとりかえしがつきません。被災地を現場とした日米共同軍事演習=軍事物資輸送訓練を止め、オスプレイを撤収させるべきです。現地のニーズにあった支援と住宅の整備を早急に行うよう要求します。 2016年4月21日 |
Tweet |