自民党「特定秘密保護法の新聞報道への反論・23」
が明らかにする特定秘密保護法の危険

<リーフレット(PDFファイル)>

 2013年12月13日(秘密保護法成立1週間後)自民党は、「特定秘密保護法の新聞報道への反論・23」なる文書を自民党各議員に配布した。各紙が12月18日に報じた。特定秘密保護法を危惧する朝日新聞、東京新聞、毎日新聞の記事に対して反論を行ったものだ。このような文書を配布すること自体が異例であり、世論の反対を押し切って強行可決させた自民党が、依然高まる反対の声を押し殺し、党内の動揺を押さえようとするものだ。自民党はホームページに「特定秘密の保護に関する法律Q&A」、「特定秘密保護法 ―3つのポイント―」など、次々と特定秘密保護法についての弁明書ともいうべき文書を出している。
秘密保護法:自民党が批判的報道への「反論指南書」(毎日新聞)
秘密法報道に反論文書 自民、本紙など27カ所批判(東京新聞)
秘密法報道に自民が反論文書 批判的記事挙げ「解説」(朝日新聞)

 そこで彼らが主張しようとしているのは、特定秘密保護法が市民をターゲットにしたものでないこと、「偶然秘密を知ってしまった市民」などを処罰するものでないこと、「暴力」や「脅迫」を用いて情報を入手しようとする、「テロリスト」、「スパイ」、特異な「活動家」をターゲットにしたものであることなど、「一般の方の生活には、全く影響はありません」(『3つのポイント』)ということである。だが彼らの期待する「一般の方の生活」とは、よけいなことを考えず、政府の政策に疑問や反発ももたず批判もせず、ひたすらお上の言うことを聞いてせっせと税金を納め続ける「良き国民の生活」にほかならないだろう。
 この論法は、戦前の治安維持法と全く同じである。治安維持法は、国体の転覆と私有財産制の廃止を主張する共産主義者をターゲットにしたもので一般人の生活には全く関係がないと喧伝されたが、実際には、全く無実の市民を冤罪によって逮捕し、拷問・投獄・虐殺し、暗黒社会をつくり出したのであった。
 自民党文書は「一部の新聞は誤情報を流して国民を不安に陥れている」「事実に反する」などとしているが、全くずさんで反論になっていない。それでもなお私たちがこの文書を問題にするのは、ウソとねじ曲げ、すり替えばかりの「回答」の中から、いっそう特定秘密保護法の危険が浮かび上がるからだ。軍艦の写真撮影さえままならないこと、原発の作業員が作業で得た情報を発信したら処罰される可能性があること、一般人が原発や米軍基地の状態を危惧し情報を得ようとしただけでも罪に問われる可能性があること、外国人やその友人は「スパイ予備軍」とみなされ監視下に置かれる危険があること、特定秘密取扱者とつながる家族や親族にまで冤罪の危険が及ぶこと、官僚の汚職や不祥事を隠蔽するために特定秘密が指定される可能性があること、等々である。政府から情報を得ようとする市民は不当に追及を受け処罰される危険な状況にさらされる。その範囲は広く一般市民にまでおよぶ。市民は萎縮させられる。
 以下、「特定秘密保護法の新聞報道への反論・23」を中心に、必要に応じて他の自民党文書、「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」、「特別秘密の保護に関する法律案【逐条解説】(2013年11月)」なども参考にしながら、自民党の回答の問題点を明らかにしたい。
 特定秘密保護法は強行成立・公布されたが、施行までは時間がある。法律廃止のための国会請願署名も開始された。野党は通常国会に「廃止法案」を提出する構えだ。反対世論と運動をつよめ、特定秘密保護法をなんとしても廃止に追い込もう。

(参考)
※「特定秘密保護法の新聞報道への反論・23」は以下のホームページに掲載
  秘密保護法報道?自民党反論文書の中身」(GoHoo)
「特定秘密の保護に関する法律Q&A」(自民党)
「特定秘密保護法 ―3つのポイント―」(自民党)
「特別秘密の保護に関する法律案【逐条解説】」(内閣官房 2013年11月)
「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議)
 (なお、法律案の制定過程で「特別秘密」が「特定秘密」に変わったため、古い文書では「特別秘密」と表記されている場合がある)

「特定秘密の保護に関する法律(全文)」


Q1:米軍や自衛隊の艦船の写真撮影は罪に問われるのか。(11月24日 朝日新聞・朝刊)
 回答は「民間人が、通常の範囲で行った米軍や自衛隊の艦船の写真撮影は、特定秘密保護法により処罰されることはありません」「通常の方法で行った写真撮影はこれに該当しません」となっている。逆に言えば、「通常の範囲」「通常の方法」を逸脱した写真撮影は処罰される可能性があるということだ。処罰されるのは「外国の利益を図るなどの目的の下」という取得目的と、「違法行為等により取得する」という取得方法だが、「外国の利益を図るなど」「違法行為等」と「など」「等」が付くことで、必ずしも「外国の利益のため」「違法行為」である必要はない。
 Q23でも言及されるが、西山太吉氏が政府の沖縄密約をスクープした事件では、「外国の利益のため」でも「違法行為」でもなかった(第1審では「公共性」を認定、無罪)が、「社会通念上是認できない行為」によって取得されたとして、最高裁で有罪判決が確定している。 
 民間人が軍艦の写真をとろうとしたら、かならず「通常の範囲かどうか」を考えなければならなくなる。海岸から、山の上から、マンションの屋上から、ボートに乗って接近して、あるいは、公開時の艦上で等々。このQは、艦船に限定されているが、戦闘機や戦車を含む一切の兵器、軍事施設が問題になる。
 復帰前の沖縄では、米軍基地は黒塗りされ、市民や報道機関がそれを撮影したり公表したりすることは許されなかった。
 那覇市情報公開訴訟で争われた対潜水艦戦作戦センター(ASWOC)は、建物が那覇基地の外からも見えるにもかかわらず、「場所を知らせることで第三国に狙われる可能性がある」「自衛官でも許可を得なければ入れない。通知により、通常は撮影どころか場所を知らせることもできない」とされ、写真撮影を拒否されたという記事が、沖縄タイムスに掲載された。すなわち、民間人がカメラを向けさえすれば自由にとれる条件にありながら、写真撮影が拒否され続けたのである。沖縄タイムス記者が強行したらどうなったか。
 ホームページやブログ、あるいは雑誌等々に自ら撮った艦船の写真を掲載した場合、目的や方法が「通常の範囲」「通常の方法」で撮影したものなのか否かが問題になり、処罰される、あるいは家宅捜索を受けたり、検挙され起訴される可能性がある。結果的に裁判で無罪になるとしても、起訴され長期の裁判を強いられる危険があることは、それで十分に萎縮効果を生む。
 軍事訓練の騒音で悩む米軍基地周辺などでは、地域住民による監視活動が日夜続けられている。ここでの結論は、検挙・逮捕・起訴・処罰される危険を冒さずには米軍や自衛隊の艦船を写真撮影することはできないということだ
自衛隊施設 外から見えても撮影不可(沖縄タイムス) 
復帰前の空撮、米軍基地は黒塗り 秘密法で時代逆戻り(琉球新報)


Q2 宇宙開発や感染症など、安全保障やテロ対策と強く関わる研究に特定秘密の「網」が広くかぶせられ、悪影響がおよぶ可能性がある。
 回答は、「民間の研究機関が特定秘密を取り扱うことになるのは・・・行政機関と締結したときのみ」として「宇宙開発や感染症などの研究に悪影響が及ぶ可能性はありません」としている。
 だが、「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(2011年8月8日)は、次のように書いている。
 「独立行政法人等例えば人工衛星の研究開発、大量破壊兵器に転用可能なロケットに係る機微技術の研究開発等に関して・・・その独立性、業務の多様性等にも配慮しつつ、独立行政法人等が作成・取得する情報についても本法制の適用対象に含めることが適当である。」
 そして、政府とは直接関係を有しない民間事業者や大学が作成・取得する情報は、経済活動の自由や学問の自由の観点から本法制の適用対象とはしない。
 「ただし、民間事業者及び大学が行政機関等から事業委託を受ける場合には、当該事業において作成・取得される情報は・・・特別秘密の保全義務を課すことも許容される。したがって、このような場合に限っては、民間事業者等が作成・取得する情報も本法制の適用対象とすることが適当である。」
 つまり、行政機関から事業委託を受けた民間事業者や大学は、独自に作成・取得した情報も特定秘密保護の対象となる。
 また、【逐条解説】では「特別秘密の指定の対象は・・・個々の文書、物件ではない。・・・指定の効果は、個々の文書や物件にとどまるものではなく、客観的に同一性がある限り、事項を記録又は化体する媒体の異動にかかわらず、いわば無限に及ぶものである。すなわち・・・表現上の異動や、媒体、表現形式によって影響を受けるものではなく、ひとえに内容が同一であるか否かによって判断される。」(11ページ)
 すなわち、ある情報が秘密指定を受けたら、それと内容が同一とみなされた一切合切のものが自動的に秘密指定の対象となり、その広がりは無限なのである


Q3 原発の作業員が、使用済み核燃料に関する情報や、汚染水漏れが起きている原発周辺の様子などをツイッターで情報発信したところ、警察官に、特定秘密漏洩により処罰の対象になりうると警告された。(12月1日 朝日新聞・朝刊)
 回答は、「使用済み核燃料に関する情報や、汚染水漏れが起きている原発周辺の様子は本法の別表にはないので、特定秘密に指定されることはありません」である。
 だがそもそも、「使用済み核燃料に関する情報や、汚染水漏れが起きている原発周辺の様子」が別表にあたらないかどうかも疑わしい。なぜなら、別表の4は「テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究」とあり、使用済み核燃料や汚染水タンクは、MOX燃料輸送や燃料冷却プールと同様十分テロの標的となりうるからだ。「使用済み核燃料に関する情報や、汚染水漏れが起きている原発周辺の様子は特定秘密ではない」というのは現在の自民党閣僚の答弁・私的見解でしかない。
 ここで注目しなければならないことは、「処罰の対象になりうると警告された」という新聞報道に対して、「処罰対象にはならない」と反論するのではなく、「特定秘密ではない」と答えているのみだということである。原発の作業員が仮に、別表に含まれる可能性がある原発の警備状況や原発の構造などについてツイッターで情報発信した場合は処罰の対象になるということは、否定していない。
 秘密取扱者でもなんでもない原発の作業員が原発情報を取得し情報発信したら罪を問われる可能性があるというのは、市民は罪に問われないという回答(Q8、Q6など、『3つのポイント』ほか)と明らかに矛盾する。それとも原発の作業員はすべて「特定秘密取扱者」であり、厳しい「適性検査」受けた者だけが作業員になれるのだろうか。
 ここでの結論は、原発の作業員が、作業で得た情報をツイッターで発信したら、その内容によっては罪に問われる可能性があるということだ


Q4:市民団体の集会で「秘密を明らかにしよう」と呼びかけ(中略)特定秘密保護法違反(煽動)の容疑で逮捕・起訴された。(12月5日 朝日新聞・朝刊)

 回答は、「市民団体の集会で単に『秘密を明らかにしよう』とよびかけることは、煽動にあたらない」という理由で反論している。ここでもまた「単に」という限定が入っているのがいかがわしい。市民集会で「明らかにしよう」というのが煽動にあたらないのであれば、集会・デモで「石破防衛相は今すぐ明らかにせよ」というのはどうなのか。石破氏を名指し、情報公開を迫っている。これは「単なる呼びかけ」とは言えないのではないか。
 【逐条解説】では、「煽動」の定義について「当該行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えること」とされている。その場合、「実際に決意を生じせしめたか、あるいは、決意を助長させることを必要としない」。石破氏が「決意はしなかったが、決意させる勢いのある刺激であった」と言えば成立するのではないのか。
 デモ参加者の多くは「決意を助長させるような勢いのある刺激を与え」ようとしているだろう。「決意させるために刺激を与えようとしたか」と問えば、おそらくほとんどの人が間違いなく「イエス」というだろう。
 さらに「煽動」には以下の記述がある。「煽動の内容たる意思表示が相手方の認識又は了解し得べき状態に置かれたことをもって足り、相手方が現実に認識又は了解することを必要としない」。これは、たとえばテレビやインターネット、雑誌等で「石破氏は明らかにせよ」と訴えることも含むのではないか。石破氏が実際にテレビや雑誌を見る必要はない。それらを見ることが可能な状態に置かれるだけで足りるのである。
 市民団体の集会で「秘密を明らかにしよう」と呼びかけることは、特定秘密保護法の「独立教唆」「煽動」の規定にぴったり当てはまる

エ 「煽動」
 漏えい行為等を実行させる目的をもって、人に対して、当該行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることを言う。
 客観的に人に実行を決意させるか既存の決意を助長させるような性質の刺激を与えれば成立し、実際に決意を生じせしめたか、あるいは、決意を助長させることを必要としない。煽動の内容たる意思表示が相手方の認識又は了解し得べき状態に置かれたことをもって足り、相手方が現実に認識又は了解することを必要としない。煽動の相手方は、特定少数者では足りず、不特定又は多数人であることを要する。(【逐条解説】より)


Q5、この法律が成立したら、市民運動で声を上げた人が捜査されたり、逮捕されたりする。(12月2日 東京新聞・朝刊)(Q12、Q13も同様の報道)
 回答は「テロリズム」の規定を引用し、“「市民運動で声を上げた人」はテロリストではないから捜査されたり、逮捕されたりすることはありません”と答えている。
 「テロリズム」の規定は、第12条2項「適性評価」の条文で、“スパイ活動やテロ活動に関わっている人物は秘密取扱者にはなれない”との文脈で出てくるもので、そもそも特定秘密保護法は「テロリスト」を捜査したり、逮捕したりするための規定をもっていない。従って、“「市民運動で声を上げた人」はテロリストではないから処罰されない”との回答は、この法律に沿った回答になっていない。逆に、「テロリスト」と見なされた者は、特定秘密保護法の処罰対象になるかのような重大な拡大解釈をしている。むしろこれが自民党の本音だろう。これが、この回答の危険性の第1点である。
 その上で回答を見ると、条文のテロリズム=「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」という規定について、以下のように分割している。
「政治上その他の主義主張に基づき、(1)国家若しくは他人にこれを強要し、又は(2)社会に不安若しくは恐怖を与える目的でア)人を殺傷し、又はイ)重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」。
 回答によると、条文は重層構造をしており、ア)人を殺傷する活動、イ)重要な施設その他の物を破壊するための活動の二つがテロリズムだと言うのである。
 たしかにそのような条文解釈は可能である。だから、ここではあれかこれかの解釈論争が問題ではない。自民党が反論しているこれらの記事は、12月2日、12月3日、12月5日、12月6日と連続して掲載されている。参院で修正協議が行われている真っ最中であった。問題は、条文がさまざまな解釈を生むあいまいな文章であることを承知しながら、あえてあいまいなままで強行成立させたということだ
 一方、石破氏が「デモで大声を上げること=テロ」とブログに書いたのは11月29日であった。石破氏は12月2日に内容を一部修正したが、結局「絶叫デモ=テロ」との見方そのものは撤回しなかった。
 条文をいかようにでもとれるままにし、拡大解釈の可能性を残したのではないのか
 「市民運動で声を上げた人が捜査されたり、逮捕されたりする」というのは、テロリズムとの関係だけでなく、Q4の「煽動」規定ともかかわる重要な問題である


Q6 民間人が原発や基地の情報を探ろうとしただけでも処罰される可能性がある。(12月6日 朝日新聞・朝刊)
 回答は「民間人が単に原発や基地の情報を探ろうとしただけでは、特定秘密保護法により処罰されることはありません」としている。またしても回答に「単に」が入っている。また、報道は「探ろうとしただけでも処罰される可能性」となっているのにもかかわらず、回答は「“「極めて例外的な場合を除き」公務員以外が特定秘密を取得した者が処罰対象になることはない”としている。これは、「取得実行」と「漏えい教唆」を混同させた悪質なトリックである
 ここで問題になるのは「独立教唆」である。【逐条解説】では「独立教唆」(単に人をそそのかすこと)について「独立教唆は、教唆とは異なり、教唆行為、すなわち人に漏えい行為等を実行する決意を生じさせるに適した行為があれば、それだけで独立犯としての教唆が成立し、教唆行為の結果として被教唆者が漏洩行為等を実行したことを要しないのみならず、実行する決意を抱くに至ったことも要しない」とされている。これは「煽動」の場合と同じである。わざわざ「独立教唆」は教唆とは違い、「実行する」必要がないだけでなく、「決意を抱く」ことさえ必要ないと書いている。「単に」原発や基地の情報を探ろうとし、役所などに「教えてほしい」と言っただけで成立するのである
 だから、「民間人が原発や基地の情報を探ろうとしただけでも処罰される可能性がある」ということは、間違いなくこの法律に書いてある。(第25条)

ウ 「教唆」
 漏洩行為等を実行させる目的をもって、人に対して、当該行為を実行する決意を新たに生じさせるに足る慫慂行為をすることをいう。
 独立教唆は、教唆とは異なり、教唆行為、すなわち人に漏えい行為等を実行する決意を生じさせるに適した行為があれば、それだけで独立犯としての教唆が成立し、教唆行為の結果として被教唆者が漏洩行為等を実行したことを要しないのみならず、実行する決意を抱くに至ったことも要しない。(【逐条解説】より)


Q7 市民が得られていた情報が、ある日突然隠される可能性は排除できない。(12月4日 朝日新聞・朝刊)
(1) 回答は「内閣総理大臣」が指定について行政機関の長に対して指示する「改善策」をもって反論しているが、全くの見当外れである。国民の声を無視して強行成立させた安倍首相の戦時体制・監視体制構築を問題にしているときに、安倍首相が管理するから大丈夫という反論はありえない。逆に、恣意的な運用、際限なき拡大を促進するものになるだろう。

(2)「『市民が得られていた情報』は『公になっていないもの』という要件を満たしておらず、特定秘密に指定されることはありません」という回答も、全く的外れだ。政府が防衛計画で調達しようとしている軍艦や戦闘機の数、軍事作戦、軍事演習、防衛政策などの重要な点について、これまで公表されていた情報でさえも、新たな方針・計画については知らされないことになるということが、懸念されているのである。回答は「過去公表して公になっているものは新たに特定秘密に指定することはない」と言っているだけである。
 一方、森雅子担当大臣は11月29日の答弁で、過去の膨大な非公表文書にもさかのぼって「特定秘密」の指定が可能と回答している。
 だが【逐条解説】を読むと、ことはそう単純ではない。「公になっていないもの」について以下の記述がある。「『公になっていないもの』との概念は公にされたか否かとは別個の概念と解すべきであり、例えば特別秘密に該当する事項を壁新聞に掲載して公道の掲示板に掲示する行為は、特別秘密を公にした行為であるが、たまたま警察官がこれを早期に発見して撤去し、誰の目にも触れなかった場合には、当該事項は『公にされた』ものの、いまだ『公になっていないもの』として、非公知性の要件は失われない」
 いかにも禅問答のような解説だが、問題はなぜ「公にされたもの」と「公になったもの」を区別するような発想がでてきたのかということではないか。誰かに「公にされた」としても政府が「公になっていない」と強弁して秘密指定することができるとともに、すでに「公になっているもの」をブログなどで公表した者を、「公にされた」もののいまだ「公になっていないもの」を公にしたとして、特定秘密保護法違反で処罰する余地を残す。「公になっている」「いない」が極めてあいまいなのだ
 これは決して荒唐無稽な話ではない。1937年に改訂された軍機保護法では、それまで公表されていた戦闘機や軍艦の情報が突如公表されなくなった歴史がある。宮澤・レーン事件では、宮澤氏が撮影した根室の海軍の飛行場などの写真や情報が、軍機保護法違反に問われた。裁判で弁護人は「新聞にも載っている周知の事実」などと主張したが、大審院は「公然化していたとしても、海軍が公表していなければ軍事機密に該当する」と退けた。この史実は、それまで市民が得られていた情報が知らないうちに特定秘密に指定され、突然特定秘密保護法違反で逮捕される危険性を示している。


Q8:今回の法律も秘密に接近しようとしただけで処罰の規定がある。「話し合い」が共謀にあたるのだ。(12月6日 東京新聞・朝刊)
 回答は「極めて例外的な場合を除き、公務員以外の者が処罰対象となることはありません」としている。つまり、「極めて例外的な場合」は処罰される。それは、Q1、Q6と同様である。ここでは新しい基準が付け加えられている。「処罰される」ためには「特定秘密であることを知ってこれらの行為を行う必要がある」というのである。だが、条文にはどこにもそんなことは書いていない。もしそうであるならば「特定秘密を知った上で取得した者」と法律に明記すべきだった
 仮に「特定秘密を知って」というのが処罰の条件になるとしても、「何のために取得したのか」「特定秘密と知っていたかどうか」が問われることになる。仮に知らなかったと主張しても「知って取得しようとしただろう」と逮捕・起訴されれば、裁判で「知らずに取得した」ことを証明しなければならない。「知らなかったこと」を証明するのは「知っていたこと」を証明するよりはるかに難しい。わざと知らせて、「おまえ特定秘密と知っていて取得しただろう」と市民を陥れることも可能となる。
 また、「『話し合い』が共謀にあたる」については、「2人以上の者が漏えい行為の実行を具体的に計画して、合意したときに成立し、単に『話し合う』だけでは『共謀』に当たら」ないとしているが、市民団体の会合で「情報を役所に聞きに行こう」と日時や場所を具体的に話し合っただけで共謀にあたることになる

イ 「共謀」
 2人以上の者が漏洩行為等の実行を具体的に計画して、合意することをいう。(【逐条解説】より)


Q9「何が問題かわからないまま処罰されることになりかねない。」、「共謀や未遂のケースでは、どんな秘密に関わって罰せられるのか、被告自身がわからないという事態さえ考えられる」(12月2日 朝日新聞・朝刊)
 回答は「『共謀』『教唆』『煽動』が成立するにはその対象が特定秘密であることを知っている必要がある」とする。これはQ8と同じである。繰り返すが条文のどこにもそんなことは書いていない。「知った上で教唆した、煽動した」といわわればそれまでだし、条文に書いていない以上、知っていたかどうかは違法かどうかの判断基準とはならない。
 特定秘密を取得した市民は、それがいかなる状況であろうと処罰される危険性があると考えなければならない。
 後半部の刑事訴訟については、「被告人の防御権を侵すことのない形で進められるべきである」と書かれているだけで、どのように防御権が保障されるのかは一切書かれていない


Q10「特定秘密を知った公務員の家族や友人、さらに省庁に出入りする民間の契約業者で働く従業員にも処罰対象が広がる」(12月6日 朝日新聞・朝刊)
 回答は「特定秘密を偶然知った者がこれを他の者に伝えたとしても処罰の対象にならない」とする。つまり特定秘密を取得し伝達した者が罪に問われた場合、その秘密を偶然知ったか故意に知ったかが問われるということ、有罪にならないためには、特定秘密と知らなかったこと、情報を偶然知ったことを証明しなければならないということである
 最近の「パソコン遠隔操作事件」では、「なりすまし」によって濡れ衣をかけられた人が最低4人冤罪で逮捕され2人が「自白」させられている。「偶然知った者」が検挙され、警察の執拗な追及によって「故意に知った」と自白しない保障がどこにあるのだろうか。
 問題は、特定秘密が市民に知らない間に指定されることによって、「秘密取扱者」とつながる膨大な数の市民が冤罪の危険にさらされるということである


Q11 国民の権利を侵害しかねない。(12月6日 東京新聞・朝刊)
 回答は、「国民の基本的人権を侵害してはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」旨を定めていると、第22条の条文をそのまま繰り返しているだけで、その保障や担保は全く書かれていない。
 この条文では「十分に配慮」とされているだけで、報道や取材の自由が保障されているわけではない。しかも実際の条文では、「国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず」と「不当に」がはいっており、「不当でない侵害」は許されることを示しているのだが、ここでは、「不当に」という文言を割愛し、あたかも「国民の基本的人権の侵害」が一切ないかのように、回答している。


Q14 アフリカ出身者や支援団体が「テロ防止」や「外交上の必要性」との名目によって、安易に監視対象になりかねない(12月2日 朝日新聞・朝刊)
 回答は「本法は、特定秘密の保護について規定するものであり、特定の者の監視について規定する者ではありません」「適性評価は、あらかじめ、対象者本人の同意を得た上で実施」するとしている。
 だが、第12条第1項で書かれている「適性評価」を行う条件は、その対象が、“新たに特定秘密を扱う者”に加えて、“以前の「適性評価」から5年経った者”、そして“引き続き当該おそれがないと認めることについて疑いを生じさせる事情があるもの”である。
 最後の「疑いを生じさせる事情があるもの」とは何か、そしてだれがそう判断するのか。【逐条解説】ではこれについて、「疑いを生じさせるおそれがある事情を行政機関の長が把握した者」および5年間に「重大な変化(婚姻等)があった者」とされる。「行政機関の長が把握」するためには職場の上司や同僚が日常的に「取扱者」を監視し情報交換しなければならないだろう。そこには婚姻だけでなく交友関係や参加しているサークル、新たな借金なども含まれるのは当然だろう。外国人や外国人の支援団体などと関わるようになったら、「疑いを生じさせる事情がある」と判断されるだろう。
 つまり、「適性評価」は一回限りではなく日常的な監視体制を含み、しかもそれは行政庁だけでなく民間企業、さらには家庭、地域、社会全体にひろがって行かざるを得ないのである。
 外国人については、【逐条解説】において適性評価の国籍条項として以下の記述がある。
 「評価対象者の配偶者や家族、同居人といった者に外国籍の者や帰化歴がある者がいる場合は、・・・当該外国や原籍国の情報機関等が当該評価対象者に特定有害活動(スパイ行為)への関与の働きかけを行うことがあり得ると考えられる」
 「外国に頻繁に渡航している場合、・・・外国人との親密な交友関係がある場合等には、外国情報機関等から情報提供の働きかけを受けていることがあり得ると考えられる」
 これは実に恐ろしい規定である。配偶者が外国人の者、外国人の友達がいる者はスパイ予備軍である。まさに「外国人を見たらスパイと思え」「外国人と親密な者はスパイの危険性がある」と言っているに等しい。宮澤・レーン事件で、宮澤氏らのサークル「心の会」がレーン夫妻との交流から特高に目を付けられたのと全く同じである。
 外国人に対するこのような見方が、「アフリカ出身者や支援団体」への差別と日常的な監視体制につながることは、想像に難くない。


Q15(11月29日 東京新聞・朝刊)、Q16、Q17、Q21(12月6日 朝日新聞・朝刊)、Q20(12月2日 毎日新聞・朝刊)
 これらの報道では、官僚による「情報の囲い込み」、行政機関の長による「恣意的運用」、特定秘密の増殖などが問題にされている。
 内閣総理大臣による関与が問題であるのはQ7、Q16、Q17で述べた通りである。
 ここでは、5年間「特定秘密」指定をしなかった省庁は指定機関から排除されることから、「とりあえず特定秘密に指定しよう」として秘密の増殖が起こること、別表に「その他」が入っていることで際限ない拡大解釈が行われることが問題だ。
 Q20(官僚による情報の「囲い込み」)への回答では、「官僚が情報を特定秘密として「囲い込む」ことはあり得ません」としているが、秘密指定の基準を決めるという情報保全諮問会議も内閣府に置かれ、指定の是非を判断するという「保全監視委員会」も事務次官級つまり行政のトップで構成され内閣官房に設置される。情報の管理状況をチェックする「情報保全監察室」も内閣府に、特定秘密に関する公文書の廃棄の是非を判断する「独立公文書管理監」も内閣府に設置される。すべてが安倍首相の管理下に置かれるのである。そもそも40万件にもおよび各省庁に散在している秘密情報をすべてチェックできるばすがない。
 また、自民党のQ&AではQ23で「.違法行為を隠すために、これを「特定秘密」に指定した場合、内部告発できなくなるのではないですか?」という問いに対して、
 「仮に、違法行為を隠蔽するために、これが特定秘密に指定されたとしても、このような指定は有効なものではなくこれらの事実について内部告発された場合、特定秘密の漏えいには該当せず、通報した者が処罰されることはありません」と回答している。
 ここではたしかに“内部告発者”が処罰されないとは言っているが、それは内部告発があった場合の話である。重要なのは「違法行為を隠蔽するために、特定秘密に指定する」可能性は否定していないということだ。内部告発されない限り、違法行為、汚職、不正は特定秘密として闇の中に葬られるだろう。
 つまり恣意的な運用、情報の囲い込み、秘密の増殖を抑制するしくみは存在しないのである。


Q18(12月5日 毎日新聞)Q22(12月6日 毎日新聞) 「国会や司法のチェックも及ばない」
 回答では、「一定の条件のもと、国会の秘密会に特定秘密を提供するものとする仕組みが盛り込まれており、国会の求めに応じ、特定秘密を提供しなければならない」とする。
 これを見ると国会議員に特定秘密を取得する権限があるかのように読めるが、実際の条文は全く違う。条文では、行政機関の長が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めた」場合に限り、「各議院又は各議院の委員会若しくは参議院の調査会」に「非公開」を前提に提供するものであり、あくまで提供権限は行政機関の長にある(第10条)。
 しかも、提供されるのは秘密の「委員会」「調査会」であり、議員個人ではない。だから、議員が情報公開請求をしても、行政機関の長は拒否することができる。また秘密会で重大な(たとえば政府が戦争を準備しているというような)情報に接した議員がその危険を国民に訴えることは出来ない。市民集会などで、議員が「秘密会」で取得した特定秘密を明らかにした場合は処罰の対象となる
 このように、特定秘密を指定し管理する行政が国会や司法の上に立つこと、を条文で定めているのである。


Q19 今回の修正案は国家秘密法と同じ。(12月2日毎日新聞)
 回答は、「『スパイ行為の防止』を主眼としたものではない」とする。
 だが、「第七章 罰則」を見れば、「人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為・・・その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者」を罰すること、それだけでなく、「共謀し、教唆し、又は煽動した者」を罰する等、まさに「スパイ活動」の防止を定めた法律である。たしかに、刑罰は死刑・無期懲役から最高懲役十年に減刑されているが、取り締まる範囲の大きさからすると、「スパイ防止法」をも上回る。
 また12条では、「特定有害活動」(スパイ活動)が「公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動」とされており、ここからも、国家機密の漏洩防止、取得活動の防止を目的としていることが明らかである。
 国家機密が「防衛、外交、スパイ活動、テロ活動」の4つに細分化されたにすぎない。特定秘密保護法の原型である秘密保全法の特別秘密には「公共の安全及び秩序の維持」がはいっており、治安維持法と軍機保護法を一体化したような内容であった


Q23 いわゆる「沖縄密約」など、政府の違法秘密も隠蔽できる。(12月6日 東京新聞)
 回答はここでも「内閣総理大臣の指示」を持ち出し、「『政府の違法密約も隠匿できる』ということはないのです」と締めくくっている。
 だが、西山太吉氏の情報スクープ行為は、森雅子担当相の答弁でも「処罰対象」とされている。西山氏に対しては、違法密約の内容や暴いたことそのものではなく、情報入手の仕方が問題であったとして有罪判決を支持している。入手方法を処罰対象にすることで、事実上違法密約を隠蔽できる。西山氏が暴露した違法密約も、日本政府はその存在を一貫して認めてこなかった。沖縄密約について政府がはっきりと認めたのは2010年3月民主党政権になってからのことである。
 佐藤栄作首相の密使であった若泉敬氏が暴露した基地自由使用や核持ち込みに関する沖縄密約についても、2002年米公文書から密約を裏付ける文書が発見されていたが、日本政府は一貫して密約の存在を否定してきた。密約が明らかになったのは2009年12月に佐藤栄作首相の遺品から「合意議事録」が発見され公表されたことによる。
 沖縄密約が「国際社会の平和と安全に関する重要な情報」「国際約束に基づき保護することが必要な情報」(別表2−ハ)とされれば、間違いなく特定秘密に指定されるだろう

2014年1月6日
リブ・イン・ピース☆9+25