岸田政権は、安倍政権でもできなかった、日本の軍事戦略を根本的に転換する方向へ舵を切ろうとしています。それは、対中軍拡を先制攻撃を軸に再編しようとするものです。安倍軍拡は、米軍の対中攻撃に集団的自衛権行使で援護・参戦するものでしたが、岸田軍拡は、日本(沖縄・本土)と自衛隊が尖兵になり、中国に先制攻撃をかけるというものです。日本が先制攻撃すれば、当然日本全体が戦場になり、南西諸島をはじめ本土のほとんど瓦礫と焦土になる可能性が高まります。新次元の危険極まりない岸田軍拡を全面批判しなければなりません。 [1]対中戦争準備を軸とする国家再編の危険性 (1) 「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が11月22日に報告書を出しました。その内容は、@5年以内に防衛力を抜本的に強化すべき。A「敵基地攻撃能力」の保有・増強は不可欠。その柱は長距離攻撃ミサイルの大量調達。B防衛産業は防衛力であり、その育成は武器輸出とセットで行うべき。C縦割り行政を打破し、総合的な防衛体制を強化する。D軍拡のための財源の確保。まずは歳出削減。足らざる部分は国民全体に負担させる(幅広い税目が必要)というものです。 これを受けて岸田首相は、11月28日に防衛相と財務相に、5年後の軍事費をGNP比2%にするよう指示し大軍拡にゴーサインを出しました。12月6日には5年間で43兆円の軍事費投入と軍事費の2倍化、財源の年内決定を指示しました。この報告書を踏まえて12月16日にも政府は「防衛3文書(国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防)」を閣議決定しようとしています。報告書は対中戦争準備の宣言という他ありません。その内容と違憲性を徹底的に批判する必要があります。 (2) 報告書は、「敵基地攻撃能力」が必要だと決めただけではありません。日本の政治・経済・社会全体を、対中戦争準備を軸に再編することを露骨に打ち出しています。これは初めてのことです。「総合的な防衛体制」の名の下、軍需産業・武器輸出の拡大、医療・社会保障切り捨てなど社会のあり方全体の根本的改悪を狙っています。単なる軍事費負担や生活関連予算の削減や増税だけではないのです。国家のあらゆる活動で対中戦争準備を最優先する社会を目指しているのです。 反対に、報告書には中国との外交努力を軸にする構想は全くありません。日中の経済協力、善隣友好・平和共存について全く問題にされていないのは驚くべきことです。最大の貿易相手国で唯一の平和友好条約を結んでいる中国を敵国扱いにしています。 [2]「先制攻撃力抑止」への転換は明白な憲法違反 (1) 最大の問題は、有識者会議が勝手に日本の軍事戦略の根本的転換を行おうとしていることです。4回開かれた会議の中では従来からのミサイル防衛を含む「防衛力による抑止」から「攻撃力による抑止」への転換を主張しています。もはや「ミサイル防衛をはじめとする防衛力」では他国の攻撃を無効化、抑止できないとして、「敵基地攻撃能力」を保有し、米国と一体化して中国に優越する、あるいは封じ込めるレベルの攻撃力を持つのだ、その脅しで相手を抑止するという考えです。このままいけば相手を圧倒するなで際限なく攻撃力を増強することになります。この軍事戦略は軍事力による威嚇を軍事戦略の基本におくもので、「武力による威嚇」を放棄した憲法9条を真っ向から否定する内容です。 各種の先制攻撃用長距離攻撃ミサイルの大量配備がこの「攻撃力による抑止」中心に置かれています。いま日本は初めて海を越えて中国本土を攻撃できる兵器を保有しようとしています。しかも超急テンポで大量に入手しようとしているのです。もちろん現在でも支援戦闘機などに爆弾を積んで攻撃することは可能ですが、対空ミサイル網が進歩しているので撃墜されずに中国本土に接近することそのものが困難です。だから今まで自衛隊は事実上中国本土に対する攻撃手段を持っていなかったのです。ところが米国製のトマホークミサイル500発、それ以外のミサイルを含めて1000から1500発の長距離攻撃ミサイル導入で、日本は強力な対中攻撃力の保有を目指しています。 南西諸島要塞化の意義も全く変わります。南西諸島配備の12式地対艦ミサイル、配備予定の米海兵隊のATACMSミサイルはいずれも射程200から300キロの対艦ミサイルで、その目的は中国海軍の南西諸島通過阻止と東シナ海への封じ込めでした。しかし、射程1000キロの長距離巡航ミサイル(例えば12式地対艦ミサイル改)を南西諸島に配備すればその意義は根本的に変わります。これらのミサイルは中国本土を攻撃できる兵器です。新しい岸田軍拡は南西諸島を中国本土を攻撃する攻撃拠点に変えるものです。 (2) 「統合防衛体制」も国のあり方を大きく変えるものです。軍事費だけでなく、各省庁の「安保関連」事業を包括することを目指し、事実上各省庁の予算の中で空港、港湾、公共インフラ、また軍民共通の科学技術開発など軍事に関係する、戦争に役に立つ部門を優先させる枠組みを作ろうというのです。国家予算の全体の中で戦争計画遂行を最優先にし、関連予算を特別に優遇する態勢を作ろうというものです。文字通り国の仕組み全体を戦争国家化するものです。 また、明らかに防衛省は政府に先行して対中戦争準備に突き進んでいます。暴走ですが、政府がそれをとがめるのではなく、逆に後追いして正当化しています。「文民統制」などなきがごときです。去年3月に、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が「中国は6年以内に台湾に侵攻する可能性がある」と公言しましたが、その線に沿って米国が5年後に対中国で戦争できる態勢を固めるのに日本の自衛隊を合わせようとしているのです。すでに米国にJSM巡航ミサイル(F35から発射;射程500キロ)を多数発注(285億円)しましたが、生産が間に合わずまだ届きません。今年の概算要求では12式地対艦ミサイルの改造(射程1000キロへの延伸、陸/海/空発射型開発)と陸上発射型量産開始を打ち出しました。ところが、「それでは5年後の攻撃力に間に合わない」と米国からトマホークミサイル(艦船・潜水艦発射;射程1600キロ)500発の購入に踏み出しました。更にJASSM巡航ミサイル(航空機発射;射程1000キロ)の購入も行います。また日本独自での極超音速ミサイル、滑空型ミサイルの開発と量産化にも手を付けます。従来持ったことのない長距離攻撃ミサイルのオンパレードで次から次への大量装備です。こんな店舗での装備導入は過去に例がありません。トマホークミサイル500発だけで米海軍がインド太平洋に展開するトマホークと同レベルの数です。他のミサイルとあわせると強力な対中攻撃力を持つことになるのは明らかです。 [3]日本が対中先制攻撃戦力の中心に。そうなれば日本が戦場に 有識者会議報告書が提起する対中戦争準備を進めればどうなるでしょう。最も重大なのは、アジアで日本が通常戦力での対中攻撃力で米第7艦隊や在日米軍と並ぶか、あるいはそれを上回る力を持つことになることです。トマホークだけで日米で1000発、他のミサイルもあわせると軽く2000発を上回る長距離攻撃ミサイル装備は、中国の1000キロを超える中距離戦力(弾道ミサイルや巡航ミサイル)を上回ることをもざすものです。 政府や自民党が国会などで説明する「攻撃を察知してから反撃」というのも実際には不可能でごまかしのためのいいわけです。相手のミサイルが発射直前にあることを探知することなど米軍でもできません。日本には何の探知手段もありません。また、トマホークは音速程度の速度なので探知されれば簡単に撃墜されます。だから撃墜されないために射程が大幅に減衰してでも超低空で飛ばすしかありません。また、対空ミサイル網が機能する前に、すなわち一斉先制攻撃をするしかないのです。日本がこれから開発し装備予定の他のミサイルも同じです。だから、これらは「反撃能力」等ではなく、長距離先制攻撃用の兵器なのです。「自衛」でもなんでもありません。 トマホークなど長距離攻撃ミサイルは探知を避けて低空を飛行させれば射程が大幅に短くなる関係で南西諸島配備よりも中国本土に近い場所からの発射が有利です。だから東シナ海で大陸に接近した艦船、特に潜航した潜水艦からの発射、東シナ海上空からのF35やF15、F2などからの発射になるのです。トマホークや他のミサイルを搭載できる艦船や潜水艦の数、ミサイルを搭載できる航空機の数は自衛隊が第7艦隊や在日米軍より多いので、自衛隊が対中国攻撃の主体になります。だから「敵基地反撃能力」獲得とは、日本が米と対等の、あるいはそれ以上の対中先制攻撃能力を獲得し、対中攻撃ではその最先頭部隊になるということです。もちろん総合的には米軍の力が大きいです。核戦力はいうまでもありません。自衛隊も含めてすべては米軍の情報と指揮下におかれるでしょう。しかし、米軍の打撃力の中心である空母機動部隊や随伴の艦船は東シナ海に入れません。必然的に最前線に立つ突撃部隊は自衛隊になるのです。 もしもこのような戦争になれば、中国側が南西諸島だけでなく本土の米軍基地、自衛隊基地に反撃するのは当然です。核による反撃すらあり得るのです。日本全体が戦場になるのです。だから、「敵基地反撃能力」獲得の途こそ日本を瓦礫と廃墟にする戦争への道です。絶対に許してはならず、阻止しなければなりません。 [4]軍事費増税反対。戦争準備ではなく平和共存外交を (1) トランプ政権に続きバイデン政権が本格化し、日本政府・メディアが騒ぎ立てる「台湾有事」=対中戦争準備、「人権外交」、反中・嫌中イデオロギーに、日本では共産党を含めて野党全体が同調し、反中翼賛体制に絡め取られています。さらにウクライナ戦争が反ロ・嫌ロイデオロギーを台頭させ、これも共産党を含む野党を巻き込んでいます。立民も「敵基地攻撃能力」容認を検討し、共産党も反中・嫌中にとらわれる限り、本格的に対中軍拡と対決できないでしょう。しかし、繰り返しますが、それは瓦礫と廃墟への道です。 (2) 好戦的雰囲気が社会全体を覆い、反戦運動は守勢に立たされています。中国は脅威だ、いつ攻めてくるかもしれない、だから軍備増強が必要だという政府やメディアの宣伝に、そう思い込まされているのです。しかし、手っ取り早い巻き返し策はありません。米帝国主義と日本帝国主義に矛先を向け、地道に、「台湾有事」のウソ・デタラメを暴露し、ウクライナ戦争でも平和運動がゼレンスキーの徹底抗戦を支援するのではなく、米・NATOに矛先を向けた宣伝を積み重ねるしかないのです。 ただ、着実に反発は強まりつつあります。生活を犠牲にしてでも軍拡を支持する声は大きくはありません。軍事費のために増税することに対しては反対の声がだんだんと強まり、政治と自民党を動揺させ始めています。みんなが生活に苦しんでいるときに増税など言い出せる雰囲気ではなくなってきています。また、本当に中国と戦争することを支持する声も大きくはありません。最大の貿易相手国との戦争を前提にすれば、日本経済の破綻は明かです。軍備増強一辺倒で外交が全く欠落した岸田政権に疑問の声が上がるのは必至です。何よりも内閣支持率が極めて低く、世論の声が強くなれば押しとどめる道が開けるでしょう。 防衛3文書、対中大軍拡予算、そのための増税と収奪に反対しましょう。戦争準備ではなく平和共存外交、相互協力を要求することが必要です。 2022年12月13日 |
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