戦争のない世界をつくるために、相手の心に響く取り組みを
「ジェリー・ヨコタさんと考える 南ア、パレスチナ、そして日本」報告

 12月15日(日)、大阪市内で、「ジェリー・ヨコタさんと考える 南ア、パレスチナ、そして日本」(主催 リブ・イン・ピース☆9+25)を開催した。50人近くが参加した。

 最初に主催者から、かつてジェリー・ヨコタさんが中心を担っていた90年前後の南ア・アパルトヘイト反対運動に参加し、再び現在のパレスチナ連帯闘争で行動をともにする機会を得たことから、ぜひともお話をしてほしいと依頼し、今回の企画につながったことなどが話された。ヨコタさんのお話は大きく二つに分かれ、前半では、自身が取り組まれてきた反アバルトヘイト闘争やパレスチナ連帯闘争の経験、後半では、戦争を止め平和をつくるため多様な方法でアプローチし、コミュニケーションをとっていく必要性が語られた。
 
学生時代の「人権活動」 モハメド・アリのインパクト
 ヨコタさんは祖父が日本人の日系3世。子ども時代を米国で過ごし、公民権運動、キュー危機、ベトナム戦争と反戦運動の高揚などの激動した時期と重なる。小学校3年生の時にケネディ大統領が暗殺され、中学生だった68年にはキング牧師が暗殺された。そのような中で最も強く影響を受けたのはモハメド・アリだったという。彼はローマ五輪で金メダルを取ったが、黒人だったためレストランに入ることを拒否された。そしてWBCの世界王者となったが、ベトナム戦争への徴兵を拒否したため、王座をはく奪された。












 高校生になると人権運動に興味を持ち、自分のルーツともからんで日系人の強制収容に対する賠償請求運動などにかかわった。米政府は、日系人への賠償を認めた。だが大学生になるころには、奴隷にされたアフリカ系アメリカ人や先住民には賠償されていないことに気づき、そうした問題も見逃してはならないと感じ始めた。
 大学時代には、反アパルトヘイト運動で、新聞紙で作った鎖で大学本部を包囲するなどの活動で、大学の投資をやめさせる活動に取り組んだ。この活動は、現在のイスラエルへのBDS運動に通じるものがある。

日本留学と就職 反アパルトヘイト運動からパレスチナ連帯へ
 86年に大阪大学に留学し、88年から教員になり反アパルトヘイト運動にかかわった。90年に大阪の扇町プールにマンデラ氏を招聘し、自身通訳も担った。この集会には28000人が参加した。そのころ大学内でも学生たちとハンストを行った。その記事が新聞に載り保護者から「先生が仕事さぼって何をしているのか」とクレームが来た。だが研究課長が理解のある人で、休み時間で仕事に支障はないとうまくとりなしてくれた。だが時代は変わり、いまならどうなるかわからない。90年に始まった湾岸戦争への抗議ではダイインをした。

 反アパルトヘイトとパレスチナ連帯をつなげるものとしてマンデラの言葉が紹介された。
 「パレスチナ人は自由にならなければ、私たちの自由は不完全である。」
 南アフリカとイスラエルの類似性について説明があった。南アフリカは48年にアパルトヘイト政権ができて、350万人を強制移住させた(バントゥースタン政策)。
 一方イスラエルも48年に建国され暴力的追放と大虐殺(ナクバ)が起こった。520万人のパレスチナ人が難民となった。これは偶然ではない。国連は、「アパルトヘイトは人類に対する犯罪」と決議したが、これは南アとパレスチナにあてはまる。


音楽、絵画、演劇、ダンスなど、人の心に響く力強い役割
 ヨコタさんは、音楽、絵、演劇、ダンスなど、言語ではないシンボルやイメージが、人の心に響く力を持つということを具体的な例を挙げて語った。学術的には「認知言語学」というらしい。彼女自身、劇団や歌手などのアーティストの来日公演などに中心的にかかわってきた。
・反アパルトヘイト運動との関係では「島」。「島」という演劇公演を招いた。南アフリカで「島」と言えばロベン島を指す。「島」は「孤立」を意味する。南アの白人政権は、マンデラを28年間この島に閉じ込め、人々の記憶から消そうとした。獄中でどのような生活をしていたのか知らされず、ほとんど写真も残っていない。
・音楽では、ミリアム・マケバを日本に招いてコンサートをしたことがある。
・「複合差別」とは人種や性などさまざまな差別が重なっているということを言う。マンデラは女性差別をなくすことに強い関心を持っていた。マンデラは獄中で囚人たちに演劇をさせることで、彼ら自身が持つ女性差別に気づかせていった。アパルトヘイト終焉に女性たちが果たした役割は大きい。
・一方パレスチナでのシンボルは「壁」だ。パレスチナを隔てる壁だが、心の壁、人々の痛みが分からなくなってしまうという恐ろしい力をもつ。これは壁の絵だが、壁の向こうに何がある? 次は鳥かごの絵。鳥かごからマンデラが飛び立っているが、パレスチナはかごの中にいる。
・これはダンスの写真だが、ダンスは今後最も期待できるアートだと思っている。
・私は、「能」の研究をやっている。600年前にどのようにジェンダー問題が表われているのか。古典もあるが、新作もある。新作にパレスチナを舞台にした能や狂言もある。

 ヨコタさんは次から次へと多彩な文化・芸術の可能性を紹介しながら最後に「みなさんも、それぞれの趣味、自分の好きな分野で、広めていくことを考えてほしい」と呼びかけた。そして、御堂筋行進で、スローガンを叫ぶだけではだめだ。自分の周りの人に、知らない人にどれだけ届けることができるかが重要。私は、東京の地下鉄で隣の人に話しかけてみた。決して得意ではないが、白い象牙の塔の中に安住していてはだめだと思っている。そのように付け加えた。

戦争のない世界を目指して、さまざまな取り組み
 次にヨコタさんは、新聞でも報じられた「停戦巡礼」について語った。ガザの最北端から最南端まで40キロ、その距離を歩いた。阪急大山崎駅(京都府)から門真市、大阪市内を通り、東大阪市にある布施源氏ケ丘教会まで、朝の8時に出発し到着したのは夕方の6時すぎだった。歩いている中で自然に出てきたのが「アイ・アム・イン・ガザ」「ガザ・イズ・ミー」という言葉。これが8拍子のリズムに乗って出てきた。歩いたのは1日だけだったが、パレスチナの人々は、毎日、1年、10年、70年と歩き続けている。この経験は一生忘れないと思う。
 これが終わって次に、パレスチナ子ども緊急支援ファンドを始めた。目標の50万円がたまったら、次のことを考える。
ヨコタさんは、戦争のない世界をつくる可能性を提供しようと世界中に広がっている「World BEYOND War」という活動(組織)を紹介した。平和の文化、軍事によらない安全保障。そのサイトに軍国主義マッピングがあり、米軍基地、軍事予算、武器売買で儲けている国などが載っている。日本も軍事費をGDP1%から2%にしようとしている。ここから、どうやって軍事によらない安全保障を実現するかを考えたい。

相手の関心や考えに沿って、コミュニケーションをとることが大事
 ヨコタさんが幾度も強調したのは、相手の関心や考えに沿って、丁寧なコミュニケーションを通じて、自分たちの見解や主張を伝えていく活動の必要性だ。
・となりの人と話をするための「5つの質問」
 「戦争は非人道的だと思いますか」
 「戦争は不道徳だと思いますか」
 「戦争は、紛争解決の手段として不当なものだと思いますか。
 「戦争を世の中からなくせると思いますか」
 これに「なくせない」と答えた人に、 
 「なぜできないと思いますか」
 この質問をきっかけに、となりの人と話ができるようになるよう工夫されている。

・オスプレイの写真、重火器の軍事演習の写真。環境問題に関心のある人に、どれだけ燃料を使い環境汚染をしているか。
・「戦争をするのは年寄りの男性、戦争で死ぬのは若者」のイラスト。自分とは関係がないと思っている人に。
・12月街がにぎわうとき、「あなたがショッピングを楽しんでいるあいだに、頭上には爆弾が落ちている」のイラスト。
・「罪のない人を1人殺すたび10人の新しい敵をつくる」。殺すだけではなくて、イヤな気分にさせる。相手を全面的に否定して、私は正しい、あなたは間違っていると決めつけるのは平和活動家としてどうか。スタンディングなどで、意見が違う人と口論になることがあるが、刺激するとエスカレートする一方だ。決めつけではなくコミュニケーションをとることが大事。

 ヨコタさんは、さまざまな例を挙げ、運動をひろげていくために、戦争を止め平和な世界を築くために、自分の言葉で、多彩な表現や多様なやり方で伝えていく必要性を改めて強調した。

質疑応答
 質疑応答では、「子ども時代、日系人としていじめられた経験はないか」「なぜ米国はイスラエルを支持するのか」「ピース・ウォッシングの意味は」「BDS運動とは」などの質問が出された。
・被害者みたいに聞こえるのが心配でさっきは言わなかったが、けっこういじめられた。髪も目も黒く、夏休み明けなど肌も黒く焼けていて、教会に入れてもらえず、「黒人」と言って差別された。ジャップとかニップとか言われた。高校のディベートでベトナム戦争反対か賛成かの課題で、意に反して賛成の立場で話した。アジア系というだけで共産主義者と思われるのがイヤだったからだ。
・「ウォッシング」は日本語で「上塗り」で、「ピース・ウォッシング」は、本当は違うのに見せかけで、平和のふりをすること。性差別に反対しているふりをする、環境に配慮しているふりをするなど「ピンク・ウォッシング」「グリーンウォッシング」などという。・米国がなぜイスラエルを支持するのかは、一言でいうには難しい問題だ。あらためて、イスラエルを支持する米国の出身者として、こうして話をしているのは恥ずかしいと思う。
・BDS(Boycott,Divestment,Sanctions)については、個人的にここが嫌いだから商品買わないとかでは力を持たない。ひとりよがりではなく、信頼できる組織が対象の重要性をランキングしているので、それを参考にしてやるのが必要だ。PUMAは成功した例だが、一年前に撤退しますと言って今月ようやく撤退した。粘り強く進めていこう。 

 最後に、リブ・イン・ピース☆9+25から、日本が進めている中国との戦争準備を阻止するために闘うよう呼びかけがあった。とくにこの秋の「日米共同統合演習キーン・ソード25」は、全国の陸海空自衛隊を集結させ、米軍の指揮統制下で一体となり、実際の対中戦争を想定した大規模な軍事演習だった。単なる演習ではなく、実際の戦争を想定した予行演習といえるきわめて危険なものだ。間違いなく日米の対中戦争準備は全く新しい段階に入ったと言える。パレスチナ連帯闘争とあわせて、日本の対中戦争準備と闘っていこう。

    


2024年12月18日
リブ・イン・ピース☆9+25