7/1 三上智恵監督講演会報告
負け続けても、上映してくれる人は絶望していない。そこに希望がある

 7月1日(土)大阪市内で、映画監督三上智恵さんの講演会「また沖縄が戦場になるって本当ですか? ――現場からの報告」が行われました(リブ・イン・ピース☆9+25主催)。会場は約150人の参加者であふれました。

 三上監督は、『標的の村』(2013年)、『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』(15年)、『標的の島 風(かじ)かたか』(17年)、『沖縄スパイ戦史』(18年、大矢英代さんとの共同監督)という、沖縄をテーマにした一連のドキュメンタリー映画で知られます。その活動は映画制作にとどまらず、「島々シンポジウム」の開催、「ノーモア沖縄戦 命(ぬち)どぅ宝の会」の結成など、山城博治さんらとともに沖縄の運動の中でリーダーシップを発揮してきました。

 三上監督は、来年の公開を目指して、『沖縄、再び戦場(いくさば)へ(仮)』を制作中です。それに先だって、この作品のために撮りためた材料を「スピンオフ作品」(45分)として無料で貸し出し、それが各地で上映されています。講演に先立って、このスピンオフ作品が上映されました。


なぜ、「スピンオフ」?

 三上監督の講演の前半は、なぜ「スピンオフ」というを異例な形で無料貸し出しを始めたのか、そこに込めたの思いの表明でした。

 一連の映画を撮る一方、海上に櫓(やぐら)を組んで工事を阻止した第1次辺野古闘争(現在の辺野古崎埋め立て以前の海上基地の計画に反対する闘争)の頃から、闘いの現地に通ってきた。中でも、翁長雄志氏を沖縄県知事に押し上げた「オール沖縄」のエネルギーはすごかった。撮っていても楽しかった。
 しかし、最盛期には辺野古ゲート前に3〜400人いたが、今は10〜20人が普通。時間帯によっては1人もいないこともある。人が少ないと撮る方も撮られるれる方も辛い。それでも、どうしてもという時は自分の尻を叩いて自腹で撮りに行くが、映画作りは時間がかかる。次の戦争を止めるために映画を撮っているが、その間に何か起こってしまうかもしれない。2015年頃から、米軍基地だけではなく自衛隊の問題を取り上げるようになったが、そうなるとますます離れていく人が出る。いくら撮っても伝わらないという敗北感、無力感があった。

 そうして葛藤している時、長野県佐久市の人が、「<辺野古・高江>撮影日記」の動画を、まとめて見る会を催してくれた。この動画は、「マガジン9」のウェブサイトにアップしているものだが、負け続ける人々を撮ったもので、多くの人が観てくれる状況ではなかった。これをまとめて1時間観るのは辛い。ところが、集まった人の反応は思いもよらないものだった。観ているうちに多くの人が泣き始めた。こんなことは初めてで、伝わったという手ごたえを感じた。
 そこで、完成した映画ではなく、素材を「スピンオフ」として無料で提供し、観てもらうことを考えた。あえて作品にしないことに意味がある。鑑賞するのではなく、お客さんじゃなく、上映会をする側になってほしい、との思いを込めた。
 上映会は小規模でいい。例えば5人集まって2人は沖縄で今起きていることを知らない人だった時、その人にどう説明するかということを考えてほしい。ネットではなく顔が見える関係の中で伝えてほしい。何回もミニ上映会をしてほしい。
 敗北感、無力感と言ったが、上映してくれる人は絶望していない。「スピンオフ」の上映申し込みが急増し、600件ほどになった。映画にはがんばれなくなった人も出てくるが、がんばり代のある人が集まってきてくれる。そういう人がいることに希望を感じる。



沖縄で起きていることは他人事でない

 沖縄だけが戦争になるというのは勘違い。米国は日本列島を防波堤として使う。自分たちのところが防波堤になる。近畿でも京丹後のXバンドレーダーは真っ先に攻撃される。「沖縄大変ね」とは言っていられない。与那国島は台湾から110キロと近いから危ないと言われる。でも近いのは昔から。問題は、台湾有事のストーリーを米国が作っていること。
 以前の米軍の戦略は「エアー・シー・バトル」と言ったが、中国のミサイルが強化されたので新たな対応が必要になった。それが「オフショア・コントロール」。米軍が中国を直接攻撃するのではなく、中国軍を日本列島に引きつけて戦う。さらに「敵基地攻撃能力」で日本列島から攻撃する。「中国が撃ってくるから守る」というのは違う。防衛省防衛研究所の高橋杉雄氏は「統合海洋縦深防衛戦略」を唱えている。陣地を縦に何重にも築き、時間を稼ぐ。新しいように聞こえるが、沖縄戦でやった「縦深作戦」そのもの。米軍は後方に退いて立て直す。その間戦うのは日本・フィリピン・韓国。半年から1年時間を稼ぐ。時間を稼ぐというが、戦っているところはその間に死体の山になる。それが今やろうとしていること。

 三上監督は講演を、「自分が伝える側になるということは、平和を発信する側になること。1人1人がブレーキを踏むしかない。そのための「スピンオフ」。600件もの申し込みがあったことで、映画の完成に関わらず半分目的は達成した」と結びました。


「スピンオフ」上映会の経験から

 質疑応答では、複数の方から実際に「スピンオフ」上映会を行った経験談が寄せられました。「3回上映会をしたが、大阪と沖縄では肌感覚が違う。危機感を自分たちで持てるのか、もどかしい」といった感想、「途中で映像を止めて、意見交換しながら上映した」などの工夫が披露されました。
 これに対し三上さんは「本土だけが問題とは言えない。離島へのミサイル配備に対して、沖縄本島の動きは鈍かった」、「途中で止めるのは新しいやり方。気軽に巻き戻して観てほしい」などと答えました。

 講演会の最後に主催者から、「『中国が攻めてくる』など中国脅威論への反撃が決定的に重要。例えば最近では、『中国がキューバにスパイ基地を建設している』という宣伝がされている。しかし、ずっと前から三沢や沖縄に米軍のスパイ基地があることを、マスコミは全く問題にしない。そういった偏った宣伝に反撃していこう」と訴えました。

 「スピンオフ」の上映を全国でさらに広げましょう。『沖縄、再び戦場へ(仮)』製作応援のカンパが呼びかけられています(沖縄記録映画製作を応援する会)。ぜひご協力をお願いします。

2023年7月10日
リブ・イン・ピース☆9+25