報告[リブインピース@カフェ 憲法問題連続企画]
第9回「集団的自衛権と秘密保護法の危険」

 10月13日(日)午後、大阪市内の西区民センターで[リブインピース@カフェ 憲法問題連続企画] 第9回「集団的自衛権と秘密保護法の危険――「国家安全保障」の名のもとに踏みにじられる基本的人権」を行いました。
 講師の政治学者岩本勲さんに秘密保護法の危険をわかりやすく語っていただきました。警察が強大な権力をもち、「特別秘密」が指定されることで、社会運動を弾圧し、言論を圧殺し、人権侵害の逮捕や起訴をやりたい放題できること、メディアなどに自粛傾向が強まることなどが説明されました。
 後半は「集団的自衛権」の行使容認による解釈改憲の危険で、米軍とともに戦争ができる体制づくり、そして「日本の国益・死活的利害」なる理由による、フィリピンや「地球の裏側」への自衛隊派遣の可能性など、現在とは比べ物にならない海外派兵の危険について話されました。

 以下に当日のレジュメを掲載します。

2013年10月17日
リブ・イン・ピース☆9+25



2013.10.13

秘密保護法(レジュメ)

岩本勲

1. 解釈改憲による憲法違反の強化
(1)安倍内閣による、歴代内閣の憲法解釈さえ覆す集団的自衛権の合憲論
(2)国家安全保障会議(日本版NSC、National Security Council)の設置
アメリカの模倣:首相・外相・防衛相・官房長官による常設機関。危機管理=戦時への一元的な即応や中長期の軍事・外交戦略を練ること
(3)秘密保護法の制定
NSCと表裏一体。軍事・外交軍事情報を全面的に隠蔽。アメリカは米軍と共有する軍事秘密の厳守を再三、強硬に要求。現行の公務員の秘密漏洩罪が1年以下の懲役。秘密保護法違反の量刑が10年以下の懲役。現行の刑事特別法(米軍の秘密漏洩罪)違反及び日米相互防衛協定(MDA)秘密保護法違反の10年以下の懲役と同一水準

2. 重大な憲法違反=基本的人権の抑圧
 国民の知る権利を奪うだけではなく、学問の自由、言論・出版の自由、刑事被告の権利等、憲法に保障された基本的人権の重大な蹂躙

3. 警察国家への道
秘密保護法は警察権力に広汎で自由な捜査・逮捕の権限を賦与。

4. 無制限の秘密対象
(1)「特定秘密」は、防衛・外交・安全脅威活動防止・テロ活動防止の4分野。但し、特定秘密の設定基準はごく一般的で抽象的
(2)特定秘密指定者=行政長の裁量。あらゆる情報が特別秘密の対象。実例:1971年、「毎日新聞」記者の西山太吉記者による外務省密約電報を暴露事件
(3)特定秘密の可能性の諸例:原発発燃料の輸送経路、米空軍の日本国内の演習経路、送電線鉄柱の所在場所、等々。これを調査することは直ちに秘密保護法違反となる。戦前、「沖の軍艦を数えただけでスパイ容疑で捕えられた。国に都合の悪いことは一切しらされなかった」(「朝日新聞」投書、86歳)。

5. 秘密保護法違反裁判:被告の防御手段はゼロ
仮に、特定秘密とは知らずにそれを調査公表し、起訴された場合。被告は防御のため、具体的に何が特定秘密なのか、被告の行為がいかなる意味で秘密保護法に抵触するのか、等について審問し反論することは不可能。裁判官も行政長の許可がない限り特定秘密の内容を知りえない。一旦起訴されれば、裁判は一方的に検察の意見に従うだけで、被告は有罪が確定。上訴する理由付けすら不可能。刑事被告人の権利(憲法第37条)の完全な蹂躙

6. 警察の捜査・逮捕の自由の拡大
警察は、具体的な被疑理由を明らかにせず、一方的に秘密保護法違反の疑いだけで捜査・逮捕することは自由自在。警察権限の横暴例:立川自衛隊監視テント村事件(2003年)や葛飾ビラ配布事件(2004年):住居不法侵入罪で長期拘留・家宅捜査・証拠押収

7. 膨大な特定秘密が闇から闇へ
(1)防衛省の秘密指定件数:2006年末で9772件、2011年末には30752件防衛省の担当官以外は誰もその内容は知らない。全省庁による秘密指定数の合計は天文学的数
(2)特定秘密は指定期間5年。行政長の秘密指定の無限の更新可能。秘密解除と秘密文書保存の義務もなし。現行の情報公開法も、全くの無力。重要な情報はすべて、黒塗り→特定秘密は永久に闇から闇へ

8. 広範囲な守秘義務者と厳しい国家統制
(1)秘密取扱者(秘密作成者または秘密取得者)には国家統制による厳重な守秘義務
秘密取扱者は具体的には、イ.国の行政機関 ロ.独立行政法人 ハ.都道府県警察 ニ.政機関等から事業委託を受けた民間業者・大学。
(2)秘密保護法に関する有識者会議報告(平成23年8月)の例示:独立行政法人の宇宙開発事業。人工衛星の開発研究、大量破壊兵器に転用可能なロケットにかかわる機械技術の研究開発に関して、国の安全等に関する情報を作成・取得する可能性。行政機関等が委託した、大学でのウイルスの研究も化学の研究も原子力研究も、すべて大量破壊兵器につながる可能性。研究成果公表には厳しい国家統制がかけられ、憲法が保障する学問の自由(第23条)や出版言論の自由(第21条)が有名無実化

9. 秘密取扱者の警察的人事管理
秘密取扱者には適正評価制度を適用し徹底的な人的管理。秘密取扱者の評価事項。イ.人定事項(国籍、本籍、親族、等) ロ.学歴・職歴 ハ.我が国の利益を害する行動(政府の暴力的転覆活動、スパイ活動、等) ニ.外国への渡航歴 ホ.犯罪歴 ヘ.懲戒処分歴 ト.信用状態 チ.薬物・アルコールの影響 リ.精神問題に関する通院歴 ヌ.秘密情報にかかわる非違歴。
「対象者本人に加え、配偶者のように対象の身近にあって対象者の行動に影響を与える者」も調査対象(親しい友人や愛人・恋人等)。調査基準も調査対象も非公開。本人の提出調査票の真偽を確認するため、第三者(金融機関、医療機関、学校等)への照会も可能。

10. 秘密保護法違反は厳罰
(1)秘密取扱者の故意・過失による秘密漏洩と特定取得行為は10年以下の懲役。特定取得行為とは、財物の窃盗・不正アクセス・不正侵入・だまし・脅迫・暴行等の犯罪行為による特定秘密の取得
(2)「社会通念上是認できない行為」。これは、西山事件の際、最高裁が不倫関係を通じてのコピー取得を有力な有罪論拠とした悪判例に根拠。
(3)特定秘密取得行為については、未遂・共同謀議・教唆・扇動・国外犯のすべてを有罪とする。教唆・扇動は独立犯(実際に、特定取得行為が行われない場合)→警察はより広範に捜査を行うことが出来ることとなる。
(4)密告に対する科刑減免規定。平和組織や反政府組織におけるおとり捜査やスパイ潜入  策を想定
(5)自民党の議員立法案(1985年)=スパイ防止法案の最高刑は死刑

11. 気休めのマスコミの「取材自由保障」
 政府は、マスコミの取材の自由は保障。但し、その手段が社会通念上不当な場合は除く。マスコミ側は、常に秘密保護法違反に該当しはしないかと、ビクビクして取材→取材活動の自主規制と強い萎縮。フリー・ランサーには「取材自由」の保障はなし。言論・出版を保障する憲法第21条の重大な蹂躙

12. 政府は当初、秘密保護法の本質を隠すため、「国民の知る権利」の併記を示唆。但しそれを保障する手段なし。併記拒否の報道もあり

13. 広がりつつある秘密保護法反対世論
 日弁連、新聞労連、日本ペンクラブが反対声明を公表。パブコメも15日間(9月3日〜17日)という短期間で約9万、8割が反対。


2013.10.13

集団的自衛権(レジュメ)

岩本勲

1. 歴代内閣の解釈
 集団的自衛権の行使禁止論は歴代内閣の自衛隊合憲論の根幹
*自衛隊が憲法第9条違反であることは明確→歴代内閣は独特の憲法解釈によって、自衛隊護憲論を展開。
*自衛隊の合憲論の根拠:戦力と交戦権は否定したが、自衛権は放棄していない→自衛のための強制的物理力=自衛隊→自衛隊は憲法第9条が禁止する戦力ではない(戦力なき軍隊)
*個別的自衛権行使の諸条件
(1)専守防衛が原則→個別的自衛権は合憲
(2)専守防衛権行使の3要件:我が国への急迫不正の侵害・他に取るべき手段の不存在・必要最小限の実力行使
(3)専守防衛のための兵器上の歯止め:攻撃用兵器(長距離ミサイル・長距離航空機・航空母艦・攻撃用核兵器)の保有禁止。
(4)軍事政策上の制限:海外派兵禁止・非核三原則・武器輸出禁止三原則
*集団的自衛権は専守防衛を逸脱→集団的自衛権は国際法上は保有するが行使は禁止(集団的自衛権:自国と密接な関係にある国が武力攻撃を受けた場合、これを自国への攻撃と見做し、武力反撃を行権利)

2.国際法上の集団的自衛権
*国際法上の諸原則は戦争禁止
(1)パリ不戦条約(1929年)
(2)国連憲章(1945年)の原則:国際紛争の平和的解決。武力行使の禁止
第2条(原則)3、4、第33条
(3)諸国間の友好・協力に関する国際法上の諸原則(1970年)
*例外規定
(1)国連安全保障理事会の決議による武力行使(第42条)
(2)個別的自衛権・集団的自衛権の行使(第51条)
  ただし、自衛権行使の条件:国連加盟国に武力攻撃が行われ、安保理の対抗措置が行われる迄の間
*集団的自衛権:伝統的な国際法の概念ではなく、アメリカの発案による新侵略概念
(1)アメリカは、国連憲章作成審議中に、中南米諸国に対する軍事介入について、国連安保理による介入(ソ連=常任理事国の拒否権を防止)を阻止するためにひねり出した概念
(2)集団的自衛権行使の実例はすべて侵略の口実:アメリカのニカラグア侵略(1984年)アメリカのベトナム侵略(1966年)、湾岸戦争(1991年)、アメリカのアフガニスタン侵略(2001年)

3. アメリカに対する日本政府の個別的対応
(1)湾岸戦争(1991年)と海外派兵→PKO法
(2)周辺事態法(1999年):大規模な対米後方支援法
(3)アメリカの朝鮮民主主義人民共和国攻撃計画(1994年)と集団的自衛権問題
(4)アメリカのアフガン攻撃(2001年)→米テロ特別措置法
(5)アメリカのイラク攻撃(2003年)→イラク復興特別措置法

4. 第一次安倍内閣次における有識者懇談会の集団的自衛権論行使論(2008年)
第2次安倍内閣は、同懇談会を復活させ、前回の答申をさらに拡大した形で集団的自衛権行使を目論む
(1)前回答申における集団自衛権行使の4形態
 (@)公海上でアメリカ艦艇が攻撃された際、自衛艦による反撃
 (A)アメリカに向けて発射された弾道ミサイルの迎撃
 (B)PKO活動中に他国軍が攻撃された際の軍事的救援
 (C)戦闘地域における他国軍支援 
(2)拡大論
 (@)アメリカ以外への国(たとえばフィリピン)への集団的自衛権の行使
 (A)地球の裏側での行使 
(3)集団的自衛権容認者への法制局長官の入れ替え
(4)公明党との矛盾

<PDF版レジュメ>

[資料]特定秘密保護法案 政府原案の詳細